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力の差



「な、なんで……お前、ラザニアか!? どうしてこんな所に!?」

「おや――何とまあ。それはこっちの台詞だよ、トルテくん」


 と、白々しい口振りで、銀髪の美少年は俺をバカにしたように笑った。


 ああ、これだよ!

 このやたらと気取った感じの(なまじ姿が綺麗なものだから、似合ってしまっているけど……)大げさな仕草!

 たくさんの飾りが付いた、おしゃれで垢抜けた格好!

 畜生めっ。

 間違いない、あいつだ!


 俺の家のすぐ隣に住んでる――傲慢で意地の悪い、最悪のクソ野郎!


 ――ラザニアだ!


 怒り、戸惑い、混乱。

 たくさんの激しい気持ちが頭の中で渦巻く――

 勢いそのままに、俺はラザニアを睨み付けた!


「ふ、ふざけんな、ワケ分かんないぞ! ここには聖女様とか、偉い身分の人か、俺みたいに王都からお呼びの掛かったヤツ以外は入れねーのに! なんで、お前なんかが――」

「ははは。相変わらずトルテくんは頭が悪いなあ」

「な、何だとっ!?」


 突然の悪口に喚く俺――しかしラザニアは悪びれた様子もない。

 あのねえ、と赤ん坊にでも話し掛けるみたいな調子で口を開いた。


「僕がその程度のことを知らないとでも思っていたのかい? 掛け算もろくすっぽできない君みたいなバカでも知ってるようなことを僕が知らないとでも?」

「あ、あることないこと言ってんじゃないよ! できるさ俺だって掛け算くらい!バカにしくさってテメー!」

「か、掛け算ができないって、ぶふっ、ほ、ほんとですか? その年になって?」

「ち……違いますよ聖女様! 違います! 嘘です! 真っ赤な嘘です!」


 一度は収まったクスクス笑いが再び巻き起こり始める。

 な、なんたる屈辱だ――言い返そうとしたその時、ずいとラザニアが俺の耳元に顔を近付けてきた。


「……相変わらずどんくさいヤツだな、君も。さて、今度はどんなことを皆に吹き込んであげようかな?」

「よ、よせよバカ! なんでそんな酷いことするんだよ! 酷いぞお前!」

「どこがだい? 僕はただ、ほんとのことを喋ってるだけさ」


 すっとぼけた顔でうふふと笑うラザニア。

 く、クソったれめえっ!

 やっぱり、ロクでなしだ、この野郎っ。


 そうだ――昔から、あいつはああいうヤツだった。


 俺が物心ついた頃、村に越してきたあいつは、瞬く間に皆をたぶらかした。

 子供は、その女の子みたいに綺麗な姿や、抜群の運動神経に魅かれ――

 大人は、その利発さや聞き分けのよさに魅かれ――

 気付けば、あら不思議!

 ほんの一月足らずで村一番の人気者の誕生って寸法さ。


 ――でも、俺はヤツの上辺の性格には騙されなかった。


 なぜって?

 当然さ――だって、ラザニアは、大人たちの目が届かない所で!

 他の子供連中とつるんで、俺のことをいじめてきやがったんだからな!


 学校で勉強してる最中、俺にゴミバケツを被せて笑い者にしてきたり。

 クラスで代わりばんこにやる筈の金魚のお世話を、全部俺に押し付けてきたり。

 俺が大事にしてたおもちゃをこっそりバラバラにして、それに怒ったら「トルテくんが僕を陥れるために嘘をついているんだ!」なんてほざいて、結局俺だけが大人に絞られたり。

 うう、こうして思い出すだけでムカムカするぜ!


 そりゃまあ、あいつに褒める所が全然ないワケじゃなくって、たとえば賢い所とか、足が速い所とかは、凄く立派だと思うけど……。


 だけど!


「やっぱりお前のことなんか、俺は――あ、あれ?」

「それでは聖女様、僕にもステータス測定の儀を」

「あ、ええ。じゃあ、その水晶の上に手を置いて……」


 ちょっと目を離した隙に、ラザニアはもう水晶玉の方へ進み出ていた。

 あ、あの野郎、とことんバカにしやがって……。


 などとゴチャゴチャ考えていると、再び室内が光で満たされた。

 ……なんか、俺の時よりもずっとキラキラしてて、勢いがあるような。

 気のせいかなー。


 やがて光は筋のように細まっていく――

 さあ、ヤツのステータスがどんなモンか、見せて貰おうじゃないか。

 へへへ、これで全然ヘボだったら、思いっきり笑ってやるぜ――


「な、何っ!? なんだ、このステータスはっ!?」

「凄まじい……まさに英雄の再来だっ」

「さすがは、女神に選ばれし勇者ということか……!!」


 え?

 な、なに、その反応。

 慌てて俺も、空中に浮かんだヤツのステータスを見て――

 あんぐりと口を開けた。







 ◇ラザニア / 選ばれし勇者


  ・レベル:11

  ・HP :74

  ・MP :58


  ・力  :26

  ・素早さ:19

  ・精神 :19


  ・武器 :ブロンズソード

  ・防具 :戦う者の鎧

  ・攻撃力:12

  ・守備力:10


  ・魔法 :火炎の術(中級)

       神聖なる術(初級)

       癒しの術(初級)






 ――部屋の中は、バケツをひっくり返したみたいな騒ぎに包まれた。


「信じられん……何なのだ、このステータスはっ」

「れ、レベル11!? レベル11だと!? 王都最高の使い手ですら、レベル7が限界だったというのに!」

「おまけに、魔法を三つも……彼は賢者か何かなのか!?」

「しかも、そのうちの一つは中級クラスに達しているなんて――訳が分からんぞ、まるで夢みたいだっ」


 ざわざわとラザニアに尊敬のまなざしを向ける大臣たち――聖女様に至っては、椅子から転げ落ちんばかりに驚いている。

 当の本人は、至って平然とした表情だけど……。


 だけど、真っ青な顔でぱくぱくと口を開けたり閉めたりしている俺に気付いたヤツは――

 あの、人をバカにしくさった笑みを浮かべるのであった。



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