表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/21

弱き者



 ……ステータス、測定?


 その言葉を聴いた瞬間――俺の顔から、さあっと血が退くのが分かった。

 お、おい、嘘だろ?

 まさかこんな、大勢いる前で、そんな。


「ど、どうして、いまさら、ステータス測定だなんて――」

「はん? あなた、いまさらって言いましたか? 聖女たる私に向かって?」


 うっかり飛び出す率直な本音。

 聖女様は一瞬、眉をひそめた――ま、まずいっ。

 ご機嫌を損ねさせてしまったか!?


「ああっ、い、いや、別にイチャモンを付けようとか、そういうんじゃなくて! ええっと、あの、そのう……」


 言い訳を、何か言い訳をっ。


「……何なのだ、あの田舎臭いガキは」

「幾ら勇者と言えど、聖女様に口答えだなんて……」

「才気の欠片もない庶民の分際で、調子に乗り過ぎではないか?」


 大臣の人たちが、俺のことをボロクソに罵っている。

 く、クソっ、酷いことを言いやがって……。

 でも、怒ってる余裕なんかない。

 えっと、ええっと――


「……そ、そうだ! そもそも、そもそもですよ、女神さまに選ばれた時点で、勇者たる俺の強さの保証はされているようなものではありませんか! ならば、今は冒険の支度に時間を使うべきでは!?」

「あなたみたいなチビ助の意見なんか訊いてないんですよ。これは古より伝わる、勇者を祝福するための儀なのですから」

「ち、チビ助って……し、しかし、聖女様っ」

「いちいちピーピーうるさいガキですね。じいや、とっとと準備を」

「はい、聖女様」


 疑問やら何やらを差し挟む暇もなく事態が進んでいく。

 ど、どどど、どうしよう?


 別に、測定の仕方が分からないから嫌だとか、そういうのではないのだ。

 だって、ただ適当に、魔法の水晶玉に手をポンと置くだけだし。

 ていうか村から旅立つ前に自分で試してみたし。


 ……結果だって、ちゃんと見たし。


 ああ、そうだっ。

 測定そのものは全然、恐ろしくも何ともないのだ。

 問題はそこにはなくって。


 要するに、“計測を終えた後”なのだ、危惧すべきは……。


「――聖女様。準備が整いました」

「ええ、ご苦労様です――それではトルテ、前へ」

「は、早っ! 嘘、もう!?」


 何てこった。

 ごちゃごちゃ考えているうちに、場が整ってしまったのだ。


 震える眼球を正面に向け、現実を直視する。

 真っ赤でフカフカなカーペットに準備されているのは、沢山の宝石で飾り付けられた台座。

 その上に乗っかった、ピカピカの水晶玉。


 わああ、凄い。

 村の倉庫に放り込まれてた安物とは、やっぱりモノが違うなあ。

 痺れた頭に、マヌケな考えがよぎる。


「それじゃあ、後は説明も不要でしょう。幾らあなたが田舎者でも、これの使い方くらいは分かるでしょう?」


 風景が、声が、遠ざかっていく……。

 まるでロボットかなんかみたいにぎこちない動きで、足が動く。


 一歩、二歩、三歩。

 水晶玉の真ん前に立つ。

 のろのろ腕を伸ばす。

 掌を広げ――ぽてっと乗せる。


 途端に、水晶玉から迸る――皮膚を、肉を、骨を貫く、パチパチした流れ。

 それは瞬く間に爪先、お腹、顔、頭を駆け巡り――

 お終いに、バチンと一際大きな音が耳の傍で何回も弾けた。


 その直後、うすぼんやりとした光の柱が立ち昇って。

 ――輝きが、水晶玉へ宿った。


「さて、これで測定は完了しましたね」


 聖女様が椅子から降りて、こちらへ向かってきた。

 キラキラの髪の毛が、宝石みたいな目が、傍へ――


 ああ、駄目だ、見せちゃ駄目、見られちゃ駄目だ。

 止めなきゃ、何とかして止めなくっちゃ。

 どうやって?

 分かんないよ、そんなの!


「ま、レベルは精々3とか4とか、そんなモンでしょうけど……仮にも、勇者なんだし――」


 言いながら、彼女は水晶玉に手を触れ――


「光の魔法とか加護とかは、流石に女神さまから賜っている筈です、よ……」


 ――そして。


「…………ね…………」


 ぴたりと、固まった。


 ゆらゆらと揺らぐ蝋燭の灯だけが唯一、この空間で動けるのだ――

 やがて、大臣の内の一人、眼鏡を掛けた知的な感じのお姉さんが、こわごわ口を開いた。


「ど、どうなされたのですか、聖女様? ……ま、まさか、彼の身に、何か秘められた特別な力が――」

「特別?」


 乾いた笑い声を上げる聖女様。


「そうですね、ええ。特別と言えば特別、そうでしょうとも、レアケースではありますとも」

「は……? 失礼ながら、聖女様、それは一体、どういう」

「分かりませんか。要するに」

「――ままま、待って! 止め――」


 もはや恥も外聞も後先もかなぐり捨て、叫ぶ俺。

 しかし、その静止に意味はなかった。

 彼女は無表情のまま――


「こういう、ことですよっ!」


 勢いよく、腕を振り上げた。

 途端に水晶玉から光の粒子が噴き出し――たくさんの文字や数字を形作っていった。

 そこに書かれていたものを目にした大臣たちは――


「なっ……」

「じ、冗談だろう?」

「そんな、バカな……」

「これは一体、どういう……」


 皆一様に呻き――そして、黙りこくった。


 横たわる沈黙――ははは。

 まあ、そうなるだろうさ。


 恥ずかしさとやるせなさで、顔が真っ赤になる。

 分かりきってたよ、こんな反応。

 ああ、クソ、畜生め。

 そりゃ、喋るに喋れないよな



 ――こんなステータス、見せられたら。









 ◇トルテ / 選ばれし勇者


  ・レベル:1

  ・HP :15

  ・MP :0


  ・力  :1

  ・素早さ:1

  ・精神 :1


  ・武器 :何も身に付けていない

  ・防具 :何も身に付けていない

  ・攻撃力:0

  ・守備力:0


  ・魔法 :特になし





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ