表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/21

ステータス



「モンスター共の、そして邪神の力は、あまりにも強大でした。もちろん、我らとて負けてはいません。両者の力は拮抗していたのです。だけど、飛び交う悪しき術や、危険な呪いの数々に、人間もモンスターも次第に疲弊し、パワーを失っていったのです……」


 綺麗な、だけど悲しげな聖女様の声。

 俺たちはすっかり彼女の話に聞き入っていた。


「やがて人間とモンスターとの戦争は勢いを落とし、事実上の休戦状態となりました。減りはしないけれど、増えもしないナワバリ……そんなふうな日々が、我らに訪れ、また続いていました」


 そして――聖女様は、飛び切りに憎々しげな顔で言った。


「そう。続いて、“いた”のです」


 そうだ……。

 俺はがくっと項垂れた。

 大臣連中もしょげ返ってしまっている。





「数年前からです――人間の領土に、モンスターの姿が再び表れ始めたのは」





 そこから、人間界の――王都の現状に、繋がっていくんだ……。


「ヤツらは時に暴れ、時に懐へ潜り込み、少しずつ、少しずつ、その勢力を拡大させていきました」


 ――モンスター共の増加のペースは、非常に緩やかなものだった。

 それ故に、人間国の対応は一手も二手も遅れてしまった。

 ロクに動くこともできない俺たちを嘲笑うかのように、ヤツらはぶくぶくとその身を肥え太らせていき、そして――


「気付けば、我ら人間界は、モンスター共の跋扈する魔界と成り果ててしまっていたのです! 道を歩けば変な獣、店に入ればオバケ、空を見上げりゃ謎の怪鳥……連中の侵入を許していないのは、ここ王都と少数の強国くらいのモンですよっ!」


 心底悔しそうに、腹立たしげに喚く聖女様。

 そのお怒りももっともだ!

 同意を示すべく、俺は強く頷いた。

 ヤツらはほんとにクソったれだぜ……。


 まず第一に、モンスターはビックリするくらいに自分勝手だ。

 平気で畑の野菜とか持ってくし、勝手に人の家に上がってきて、食べものとかを盗んでいくらしいし。


 それなのに、あいつら、ちっとも悪びれやしないんだって!

 そうだ、そこが二つ目――とことん頭が悪いってトコだ!

 自分勝手な振る舞いを止めろって言ったって、全然聴きゃしない!

 すっとぼけた顔で、あー、だの、うー、だの言うばかりっ。

 とことん俺らを見下してやがるみたいなんだ!


 それから、それから、後は、えっと。

 と、ともかく、数えきれないくらい酷い部分があるんだよ、あいつらにはなあ!

 人に合わせるってことを知らない、自己中心的な獣集団なのさ!


 だからこそ、自信を持って言えるぜ。

 小鬼やらトカゲやら巨人やら、いろんな姿のモンスターがいるけど、共通している所は一つだけ。

 それは、ヤツらがどうしようもねえ、ヒッドい連中だってことさ!


 ……まあ、全部人から聞いた話とか、噂話で、本物のモンスターに会ったことはまだ一度もないんだけど。


 広い室内に、怒りのエネルギーが満ちていく……。

 お爺さんもお姉さんも関係ない、どいつもこいつも怒り狂った顔をしているぜ。


「――だけど! ここで手をこまねいてばかりいる我らではありません!」


 その時、力強い聖女様の声が響いた。

 再び彼女の方へ視線が集まる――美しいかんばせを凛とさせ、聖女様は言った。


「つい先日、私の夢の中に不思議なお告げが届きました。世にも美しく、上品な、涼やかな声が――私の心の中に吸い込まれるようにして、響いたのです」


 ニヤリと笑う聖女様。





「“光を纏いし勇者、世に出現せり。彼らの力を借り、邪なる侵略者を打ち払うべし”――と」





 しん、と場が静まる。

 その声の主……まさか、女神さまなのか……?

 いや、間違いなくそうだろう。

 夢に現れてお告げをするだなんて、そんな凄いことが人間にできるワケがない。


 ――そんな思考を打ち破るように、聖女様は口を開いた。


「そして、不思議な声は、遙か辺境の地――ウェハースに住まう、ある若者の名を示しました」

「そ、それが、俺というワケですねっ!?」

「…………あー、ええ、まあ。その通りですね、ええ」


 あ、あれ?

 何だか、また、さっきまでのやる気ナシモードに戻ってしまわれたような気が。


「それでですね。それでですねえ、んー、ちょっと、ちょっと、じいや」

「聖女様、次はアレですぞ……ごにょごにょ」

「ええー? アレって、アレのことですか? あんなチビガキ相手にやるだけ意味ないですって、時間の無駄ですよ」

「そ、それはわたくしも同意見ですが、一応は規則ですので……」

「……はあ。確かに、聖女たる者、形式には乗っ取らねばなりませんね。じゃあ、仕方がありませんか……」


 おい、こんどこそハッキリ聞こえたけど、あいつら俺をチビガキって呼ばなかったか!?


 何が何やら分からず、立ち尽くす俺――に、うろんな目を向ける大臣。

 そ、そんなに見られたって困るぜ。

 待ちぼうけを喰らってるのは、こっちの方だってのに。


 やがて、聖女様はこちらへ向き直り――そして、俺に何か軽蔑したようなまなざしをぶつけ、言った。


「……それでは、トルテよ。これより、あなたの身に秘められた真の力を計るべく――ステータス測定の儀を執り行います」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ