くじ引き2
「めんどくさいなー体育祭」
樹が顔をしかめる。それに、あれ?と武尊は首を傾げる。
「樹って、運動苦手だっけ」
樹は首を横に振った。
「走ったりするのは好きだけど、ダンスが嫌だ」
「ああ~俺も嫌いだった」
武尊も嫌な過去でも思い出したのか苦虫を噛み潰したような顔をする。
「結構面白くね?隊形移動とか」
「どこが!」
啓太の言葉に、樹は悲鳴を上げるように答えた。
「踊るのは勝ち負けないから好きだったな~」
千穂がそう笑う。
「そうね、大変だけど、結構楽しくない?」
壱華も同意の意を示す。樹と武尊は苦々しい顔をする。
「・・・・・・思想の違いだ」
「そうだね」
樹の言葉に武尊は頷いた。
「体育祭だって、親に連絡するでしょう?」
「一応な」
千穂の質問に啓太が頷く。樹もうんと小さく答えた。
「喜び勇んで東京まで来るか、めんどいから来ないって言うかのどっちかだな」
「どっちもありそう」
啓太の言葉に、樹は遠い目をした。
「うちは未海が来たがりそうだな~」
千穂もどこか遠い目をする。壱華が苦笑して視線を武尊に向ける。
「武尊は伝えないの?」
「絶対言わない」
武尊の意志は固いようだった。
「言わなくても来るんだもんね」
「本当それ」
千穂の言葉に武尊は頭を抱えた。
「あの人絶対悪目立ちするから嫌なんだよ」
「美人だもんね~」
千穂が追い打ちをかけるように言葉を紡ぐ。
「そう言えばさ」
千穂は思い出したように武尊を見る。
「武尊はどうして轟が家の人に連絡しないって分かったの?」
「何?編入生も伝えないの?」
樹が興味を持つ。武尊は少し疲れた顔で頭を上げた。
「熊が言ってたでしょう?千穂をわざわざ狙いに来たんだったら家に問題があるって。だから、言わないと思ったんだよ」
「親と仲悪いってこと?」
樹が前のめりになる。
「良くはないんじゃない?」
理由は分からないけどねと付け足す。
「一種の鎌かけ」
武尊はソファの背もたれに体を預ける。
「親に連絡入れない者同士、ちょっと探り入れてみようかな」
轟の目的を探るにあたってはやる気があるようだ。千穂はじっと武尊を見る。それに武尊が気付く。
「何?」
「轟とは話もしたくないんだと思ってた」
「好きじゃないけど、敵かどうかは情報を集めて見定めないといけないでしょう」
何言ってるんだと顔に書いてある。千穂はそれにむっとして顔を背けた。
「いい人だと思うよ」
「絶対怪しいって」
千穂がムキになると武尊もムキになる。珍しいこともあるものだと残りの三人は傍観していた。
パンと壱華が手を叩く。注意が壱華に集まる。
「じゃあ、轟のことは武尊に任せるわね」
壱華の笑顔に武尊は頷いた。
「千穂はあんまり轟と関わらないように気を付けて」
「はーい」
―関わらないって、隣の席なのに難しいよ
確か前にもこんなことがあった。
―武尊が編入してきた時もそうだったな
接触するなと言われて、でも席が隣で、勉強で頼るようになって―。
―いっそのこと、轟も仲間になっちゃえばいいのに
結界術に秀でた家の出かもしれないと熊は言っていた。それが仲間になったら心強い。
「千穂、本当に分かってる?」
武尊が顔を覗き込んでくる。千穂はまたそっぽを向く。
「分かってるもん」
そんな二人のやり取りを見て、三人は苦笑を浮かべた。