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 実験3

「本当に編入生来たんだ」

 樹がお茶を飲みながら言った。集合場所は千穂と壱華の部屋だ。

「さすが、あかりちゃんだよね」

千穂が少しずれた発言をする。

「で、そいつはどんな奴なんだ」

啓太も湯呑を手に取りながら訊いた。

「なんかね、女の子にもてそうな感じ」

「胡散臭い」

「どこら辺が?」

千穂は武尊に尋ねる。

「あいつ、千穂見て笑ってたよ」

「ええ~!怖い!」

―やっぱり気づいてなかった

武尊は内心ため息をついた。

「狙われてるかもしれないってこと?」

壱華が自分の分のお茶を持ちソファに座る。

「その可能性は高いかなとは思ってるけど」

武尊は頷いた。

「だから機嫌悪かったの?」

「・・・・・・それは忘れて」

武尊は額を押さえた。どうしてあんなに苛立たしく感じていたのか分からない。

―千穂に危機感がないから?

―あいつが直接俺に喧嘩売ってきたから?

それとも

―両方―

武尊はため息を吐く。

「面倒なことになりそう」

どこか遠い目をする武尊に、四人は顔を見合わせた。

「そもそもその編入生、霊能力者なのか?」

啓太がまともな発言をする。それにそれもそうだと千穂と武尊に視線が集まる。

「俺、見えてるかどうかなんて分からないよ」

「私は普通の人だと思ってた」

「てことは、霊感ないか、あっても隠してるかってところか」

樹が考える。

「本当に銀の器として千穂を見て笑ったんだったら、敵な可能性が高いね」

「でも、私がおかしかったから笑ったんだったら?」

「千穂を見て、俺に向かって笑った」

「へ?」

千穂が間抜けな声を上げる。

「だから、あいつは俺が怪しく思うような態度を取ったってこと」

もっと言えば、喧嘩を売ってきたってこと、とは言わなかった。千穂はえ?え?と頭が追い付かない様子だ。

「てことは、武尊のことも分かってるのかな」

樹が首を傾げながら言う。

「でも、武尊に怪しまれたらそれこそ終わりよ?」

だって、一番強いんだからと壱華が口を開く。

「何か作戦でもあるってことか?」

啓太がお茶をずずっと飲む。

「作戦」

武尊はつぶやく。己の精神状態を不安定なものにするということが目的であるならそれは成功している。しかし、会って数瞬の人間相手に的確な攻撃などできるだろうか。

―てことは今日のは偶然―

―偶然であんな目して自分を見て来たのか?

―わざとらしく千穂に笑いかけてたのか?

思い出すだけでイラっとする。

「あいつ、何考えてる」

ギリと歯噛みする。千穂が隣で悲鳴を上げる。

「武尊怒らないでよ~」

「怒ってない」

「うそだ~」

「怒ってないから」

武尊は頭を押さえた。だめだ、すぐに頭に血が上る。理由は何故か分からなかった。

「とりあえず、千穂はあいつに気を付けて」

「分かりました」

千穂は大仰に頷いて見せる。碧がテーブルの上でぴょんと立ち上がり手をあげた。

「俺、見てみようか?」

「何を?」

武尊が問いかける。碧は手を下ろさないまま言った。

「その怪しい奴に霊力あるか見てみようか?」

「ってことは一緒に学校に行くってこと?」

「そうなるね」

碧は手を下ろした。武尊は考える。

「せめてキーホルダーだったらよかったんだけどね」

こんなぬいぐるみを持ち歩くのは怪しいし、何より恥ずかしい。

「嫌なら千穂が連れてってくれればいいよ」

「いくら千穂でも怪しいでしょ」

武尊が否定する。碧はむくれたのかぽてっと座り直した。

「じゃあさ」

今度は樹が手をあげる。

「校内にいる妖にお願いしたらどうかな?」

「そう言えば、情報源に味方につけたんだったな」

啓太が忘れてたと手を打った。壱華も感心したような表情をしている。千穂は啓太と同じ反応を示した。

「なんてお願いする?」

武尊が話を進めようとする。皆腕を組んで考える。

「編入生に霊感があるか知りたいから教室に来て?」

樹がそう提案する。

「妖は分かるものなの?人間に霊感があるかどうかって」

碧は頷いた。

「大体だけどなんとなく分かるよ」

「じゃあ、お願いしようか」

武尊の言葉に、皆頷く。

「あーあ!俺の出番かと思ったのに」

「今が出番でしょ」

武尊が碧を肩に乗せる。

「で、どこに行けばいいの?」

「最上階かな」

五人は碧を連れて最上階へ向かった。


「予想以上だったな」

 ぼすっとベッドに倒れこむ。このベッドは備え付けだ。何も準備しなくていいとあの男は言っていた。言葉通り、家具も制服もそろっていて、自分で用意したのは私服くらいだ。

 ごろりと寝返りを打つ。

「あれは倒せないな」

とんとんと人差し指で布団を叩く。体に収まりきらないほどの霊力だ。自分の仕掛けを壊すことなど難ないだろう。

「時間稼ぎが限界か」

小さな少女を思い浮かべる。もっと凛とした佇まいの巫女のような少女を想像していたけれど、実際は小さなか弱い少女だった。霊力自体は少し強い部類と言ったところだが、これからまた強くなっていくのかと思えば恐ろしい。

「本人と直接接触しなければいけないな」

今のうちにどうにかしなければ競合者が出てくるかもしれない。それは避けたかった。―この辺りはとある男によって調整されているのだが、もちろんそれは知らされていない。

「なるべく早く、自然に」

ああ、でも

「ちょっと近づくだけであの怒気どきだからな」

強すぎる霊力にあてられて体調を崩しそうだ。

「焦らないで、少しずつかな」

少年はすっと目を細めてそう言った。


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