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 家族構成5

「親じゃなくておじさんなんだ」

 へーっと樹は声を上げた。それにうんと武尊は頷く。

「とりあえず、そう言ってた」

「家族と折り合いが悪いから、一度離れてみたら、ねぇ」

壱華がすっと目を細める。その様を、千穂はぽけっと見つめた。

―どんな顔しても美人だなー

そんなことを思っていたら、ぼすっと啓太がソファに体を預けた。

「それにしてもさ」

その一言で、啓太は皆の注意を引く。視線が集まる中、啓太はどこを見ているのか分からない顔で言った。

「何も起こらないな」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「そうだねー」

千穂だけがほわほわと頷いた。

「妖が襲ってくるわけでもないし、結界で一人にされたりしないし、幽霊が人を襲ったりとかもないし」

千穂はふわーっと笑った。

「平和ー」

ぱたぱたと隣で足を振る千穂を、武尊は横目に見てため息をついた。

「千穂がそう感じるならいいよ」

―きっとそれは悪いことじゃない

千穂のセンサーに引っかからないということは、轟は別にマークすべき人物ではないのかもしれない。

―剣も何も言ってこないし

そう思って、武尊はむっと顔をしかめた。

―じゃあ、初日に見せた笑いは何だったんだ

あの、何か知っているとでも言いたげな表情は何だったのだろうと、武尊は気分を害する。

―あれは絶対俺に喧嘩売ってた

では、なんのためにと言われればそれは全く分からない。何をかけて武尊と争おうとしているのかも全く見当がつかない。武尊は悩まし気にため息をついた。その顔さえ、千穂はきれいだなーと思いながら見ている。危機感などこれっぽっちもない。あるとすれば、轟と接触していると武尊の機嫌が悪くなることに対してだけだ。武尊は怒ると怖いのだ。ものすごく怖いのだ。

―なんであんなに怖いのかな

真面目な顔でそんなことを考え始める。

「それで、そのおじさんっていうのは嘘な感じだった?本当そうだった?」

 壱華が話を元に戻す。それと同時に視線が壱華に集まる。壱華は少々不機嫌そうだった。

「ああ、そこが分からなくて」

武尊は腕を組む。

「話しぶりはすごく落ち着いてて、端から見たらそのまま信じられそうな感じ」

しかし

「―嘘はうまいタイプだと思うんだよね」

「そうなんだ」

千穂が感心したように声を上げる。

「そんなの全然気にしてなかった!」

武尊は頭痛がするようだった。片手で額を押さえる。

「一挙手一投足注意してって言ったのに」

「―武尊がいるとつい、大丈夫かなって」

あははははと千穂は誤魔化すための乾いた笑いをこぼした。武尊はため息をついた。

「まあ、千穂が大丈夫そうに感じるならそれはいいよ」

それもまたいいことなのだと武尊は思うことにした。

「じゃあ、轟は嘘をついてるのか本当のこと言ってるのかは判別しがたいって事ね」

壱華がそうまとめる。

「とりあえず、家族とうまくいってないっていう熊の読みは合ってそうだね」

樹も加わってくる。それに壱華と武尊は頷いた。

「やっぱ、一人だけ力が弱いって事なのかなー」

啓太が独り言のようにこぼす。しかし、誰もその言葉を聞き逃さなかった。まず樹が口を開く。

「それで千穂を狙ってる」

「おじさんは千穂を力を補うために使えって言ったのかしら」

「千穂がここにいるっておじさんが知ってたってこと?」

「おじさんも霊感持ちってことかしら?」

「霊能力者たちは千穂がここにいるって知ってるって双子の一人が言ってたよね」

樹と壱華が二人で会話を続ける。

「教頭を絞れたら一番いいんだけどな」

突如、武尊がそんなことを言い出す。視線が集まる。

「あいつ、絶対何か知ってるでしょう」

不機嫌そうな顔だった。

「・・・・・・知ってそうだけど」

「教えてくれなさそうだよな」

兄弟が顔をしかめる。

「教頭先生、なんで知ってそうなの?」

「この学校の管理者だからだよ」

一人だけに腑に落ちない顔をしている千穂だったが、武尊が説明を買って出る。

「親父が選んだんだろうから、完璧関係者だよ」

この学校のこと、全部任せてるんだと思うよ。その説明に、ふーんと千穂は分かったのか分からなかったのか曖昧な反応を返した。しかし、武尊にとってはそれでよかったようだ。視線を千穂から外す。

「そもそも、こっちから見つけて接触するのが難しそうね」

壱華も教頭に直接会いに行くのには賛成しがたいようだった。

「なんでかしらね。すごく、あの人のところに行くの嫌なのよね」

「分かる」

武尊が反応する。力強く頷いた。それに千穂は、そうなんだと一人遠くから眺めるような感想を抱く。

―あの先生は怖いな

―優実ちゃんはかっこいいって言ってたけど

あれだけイケメンの先生がいればこの学校に入った価値もあるってもんよ、とかなんとか言ってた気がする。

「私は怖いなー」

「ほら、普通じゃなかった」

見てみろとでも言いたげな武尊の言葉に、千穂は頬を膨らませた。

「意地悪ー」

「何とでもどうぞ」

武尊は涼しい顔だった。千穂は余計に膨れて見せるが、そんなことしたって抗議にもなりはしない。

「俺たちにできることなんて、千穂の身辺警護くらいだよな」

啓太がため息交じりに言葉を発する。

「だから、本当は接触しないでほしいんだけどね」

「それが無理なんだってば」

武尊の言葉に、千穂が食って掛かる。武尊はそうだねとだけ返して、何やら考え始める。

「・・・身辺警護って言ったって、いつまでやるの?」

武尊の言葉に、皆が居心地悪そうにする。

「・・・・・・轟がいる限り?」

啓太が首を傾げる。

「今だって、身辺警護的なことしてるし」

「そうだね」

樹が頷いて、ぽすっとソファに背を預けた。

「でも、武尊が編入してきた時もこんな感じだったわよ?」

「そっか、俺、はじめは敵認定だったんだっけ」

「そうそう、妖が大量に侵入してきた日に初めて学校に入ったみたいだったし」

樹が懐かしそうに笑いながら言った。

「霊力の強さに皆で怪しんだよな」

啓太も思い出話として口を開く。

「あの時も接触しないのは無理だったよ」

千穂だけが困ったようにため息をついた。

「もしかしたら、武尊のお父さんから送られた味方だったりして」

「それは勘弁」

俺、あいつと合わなさそうだもんと武尊は樹の言葉に顔をしかめた。

「とりあえず、武尊と壱華には注意してもらわないといけないかもな」

啓太の言葉に武尊と壱華は頷いた。

 結局今日も会議は不毛に終わった。


「ああ、良いところまで行ったのに」

 男は壁に移る少年少女たちを見ながら笑んだ。

「どこがいいところなんですか?」

黒髪の少女が不機嫌を隠さずに問いかける。男は笑って少女の頭を撫でた。少女は嬉しそうに笑う。

「話し合いがだよ」

もう少しというところまで来てたんだ。男はいつだって笑ったままだ。少女はその顔が男の常だと知っている。しかし、ここ最近は心から笑うことが多くなったと思っている。それがあの男のおかげだと思うのは腹立たしくてならないのだが。

「ご主人様、さっさとあんな奴ら捨ててこんなところ出ましょうよ」

「漆は本当にここが嫌いだね」

「だって、ご主人様を利用して結界を作るなんて!」

「本当、大それた考えだよね」

くすくすと男は笑う。漆はそれも腹立たしい。どうしてこんな捕らわれの身のようなことになっているのかと憤る。

「私の一生は長いんだ。これくらい付き合ったってどうってことないよ」

漆は不機嫌なのだが、大好きなご主人様に頭を撫でられるとそれ以上ものを考えることはできなくて、おとなしく男の胸に頭を預けた。

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