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4.家族構成1

「これをここに代入するでしょ?」

「あ!できた!」

 隣からそんな会話が聞こえてくる。

―轟、勉強もできるんだな

もし機会があったら聞いてみようと千穂は耳を澄ませる。数学で質問があるのだと女子生徒が轟に勉強を教えてもらっていた。

―そう言えば、轟は武尊のノート見てなかったな

数学の時間を思い出す。

「ね?そんなに難しくないでしょ?」

きらきらという音が似合いそうなまぶしい笑顔を轟は送る。女子生徒はそれに顔を赤らめた。

「ありがとう」

そう言うとぱたぱたと自席に戻って行ってしまう。それを見ていた優実が轟に話しかける。

「勉強も得意なの?」

「得意って程じゃないけど」

今度はしゃらんらーとでも聞こえてきそうな笑顔で答える。それに優実は目に手の平を当てた。

「どうしたの?頭痛い?」

「いや、笑顔がまぶしすぎて」

「お世辞が上手なんだね」

「お世辞じゃないよ。マジでまぶしい」

優実は手の平をどけないまま力強く頷いた。それに轟はくすりと笑った。

「山田さんって、面白いよね」

「よく言われる!」

手はまだどかない。それをあかりが呆れたように見つめる。

「ゆっくりでいいから、手を下ろしたらどうかしら」

「でも、まぶしいし~」

「だから、ゆっくりって言ってるじゃない」

「そう?」

優実はそろそろと手を下ろした。そしてすぐに手を目元に戻す。

「無理!まぶしい!」

その反応に轟はあははと軽やかに笑った。

「本当、山田さんって面白い」

「そんなに言われると照れるな~」

優実は頭を掻いた。その際、目を覆っていた手は頭にへと移動している。

「手、退けても平気じゃない」

あかりがくすくすと笑いながら指摘する。

「さすがに慣れたかな~」

「今さっきは無理って言ってたのに」

千穂は呆れたような表情で優実を見る。優実はぱっちんとウインクをして見せた。

「変わり身の速さが長所ですから」

「ふつうそれは短所よ」

あかりが水を差す。しかし、優実は気にしない。

「まあ、そうかもだけど」

肩をすくめて見せる。そして思い出したように自席に戻るとノートを引っ張り出してくる。

「ここさ、先生の言ってること分からなかったんだけど」

「ああ、ここ?」

優実は珍しく自分から勉強の質問をした。それに轟はすらすらと答えた。

「すごい」

千穂は二人の様子に目を丸くする。

「やっぱり勉強できるじゃん」

その一言のために優実は質問をしたらしい。その言葉に、轟は困ったように笑った。

「勉強くらい頑張らないと弟に勝てるものが一つもないからね」

「弟がいるんだ!」

私もいるよ!と優実は顔を輝かせる。

「こいつが生意気なんだよね~」

「そうだね、うちも生意気かも」

くすくすと轟は笑う。

―未海も生意気だな~

千穂は自分の妹を思い出す。長身で、整った顔をしていて、勉強も運動もできる。

―確かにお父さんは運動苦手そうだったけど

でも、勉強はできてもいいと思うと千穂は内心憤る。

―なんか学者さんだみたいなこと、お母さんは言ってたし

どっちに似ても頭はいいはずだと千穂は顔をしかめる。

「どうしたの?難しい顔して」

あかりが問いかけてくる。千穂ははっと現実に帰ってくる。

「私、妹に勝てるところ一つもないかも」

泣きそうな顔で千穂はあかりに訴えた。

「高野原さんは可愛いじゃない」

すごく、と轟は笑顔を作る。千穂は輝くばかりの笑顔に目を細めた。優実ではないが手で目を覆いたくなる。

「本当、まぶしい」

―かわいいと言われ照れるのは、まぶしさに忘れていた。

「でしょう?!」

優実がガバリと千穂の方へ振り返る。

「何騒いでるの?」

 コンビニの袋を下げた武尊たちが戻ってくる。昼食の買い出しに行っていたようだ。ちなみに、今は二限と三限の間の15分休憩だ。

「轟君は、お勉強もできるんだねって話してたの」

優実がにかっと笑う。

「あと、笑顔がまぶしいねって話」

「何それ」

「武尊も負けてないわよ」

「どういうフォロー?」

あかりの言葉に眉根を寄せながら武尊は椅子に座る。大島と佐々木もずるずると近場の椅子を引きずってくる。

「武尊はね、まぶしいって言うよりかわいい」

「それ、誉め言葉じゃないから」

力説する千穂の言葉を武尊は軽く流す。そして、思い出したようににっこりと笑った。

―ほら、やっぱりかわいいじゃん

千穂は内心そう思った。しかし、どこか白々しく恐ろしい気もする。

「千穂、ちょっと話しようか」

がたりと武尊は席を立つ。

「あ、えと、そろそろ授業始まるし・・・」

本間は時間ぴったりに来るよ?と千穂は固い笑顔で返す。武尊は笑顔を崩さない。

「じゃあ、次の休み時間で」

「・・・・・・はい」

千穂は項垂れた。

―きっと、何轟と仲良く会話してるのって言われるんだろうな

しおしおと縮む千穂の頭を優実がちょいちょいとつつく。しかし、反応はない。優実はあかりと顔を合わせて肩をすくめた。あかりは苦笑いする。

―やっぱり轟は敵なのかしら

武尊のぴりつくような空気にあかりは察し始める。

―じゃあ、二人三脚やってる暇ないわね

―今からでも替わったほうがいいかしら

でも、その辺の話は武尊含め千穂からも壱華からも聞いていない。確証がなかった。

―今は動かなくていいって事なのかしらね

そう判断する。そんなことを考えていると三限の始まりを告げるチャイムが鳴る。

「じゃあ、またあとで」

そう言葉を残して、あかりは自席にへと戻った。


「俺は姉貴がいるな」

「俺も姉がいるよ」

「二人とも弟だったんだ」

 初めて知ったと武尊はへーと牛乳に刺してあるストローを口に含む。大島も佐々木も姉がいるようだ。千穂は聞き耳を立てながら意外だと思った。

「姉どうしが仲良くてさ。気づけば俺らも一緒に行動してた」

「なんで二人でいるんだろうなとは思ってた」

佐々木の言葉に武尊は正直に口にした。

「俺も初めは絶対合わないと思ったんだけど、案外楽だった」

「まあ、確かに大島は楽かも」

「扱いを覚えれば特に」

「扱うってどういうことだよ」

カレーパンを食べていた大島が参戦する。それに、二人は顔を見合わせて言った。

「大島は扱いやすい」

「絶対に扱いやすい」

「まじかー」

さしてショックを受けていない様子だ。

「でもまー、今までそれで不都合あったわけでもないし、俺はこのままでいいわ」

「ポジティブ」

千穂はついこぼしてしまった。

「だろう?」

大島がにやりと笑う。

「俺の長所だから」

「一周回って短所だよ」

「一周回ったら元通りじゃね?」

「めんど」

佐々木は携帯に注意を移した。

「つれないなー」

そう言いながら、大島はカレーパンの入っていた袋をくしゃくしゃと丸める。

「千穂もお姉ちゃんなんだよね」

「姉がいるって事か?」

「ううん。千穂がお姉ちゃん」

優実と大島の会話が始まった。

「へー、一人っ子か妹だと思ってた」

「私、お姉ちゃんなんだよ!」

ぎゅっと千穂は手を握って力説する。大島はくっと何やら声を発しながら両目を右手で覆った。

「高野原が、俺に普通に説明してるっ!」

「それがどうしたの!?」

千穂は驚く。危うく新作のクッキーを机から落とすところだった。

「一時期は怖がられてたのに、普通の友達みたいに!」

「え!友達じゃないの!?」

千穂はオレンジジュースを取り落とす。紙パックは自力で机に着地した。

「友達だよな!」

大島はがたっと立ち上がる。千穂はその勢いに無言で頷いた。視線はむけないままに武尊が大島のズボンから出ているシャツを引っ張る。

「その反応には怖がってる」

「え?ああ、悪い」

大島はよいせと座る。でもすぐにへらっと相好を崩す。

「そうかー、俺、無事に高野原に友達認定されたのか」

「―武尊とも仲良しだし・・・」

「そこが重要ポイントなのか」

「よかったねー」

優実がぱちぱちと拍手を送る。

「どうしたの?拍手なんかして」

その声の主に武尊は目線を上げた。轟が学食から戻ってきたのだ。

「大島と千穂が打ち解けて良かったねっていう拍手」

「そうなの?」

「そうそう。千穂、男子苦手だから」

「そうだったんだ」

二階堂君と普通に話してるから、男子が苦手だなんて思わなかったな。轟は笑う。それを武尊はじっと睨んでいる。

「轟は、女子の相手得意そう」

優実が笑いながら言う。轟は困った顔をした。

「そんなことないよ」

「あると思うけどなー」

「ないよ。僕姉妹いないし」

「そう言えばそうだったね」

優実があきらめずに轟から目線を外さない。

「でも、絶対得意だと思うな~」

優実は珍しく自分の意見を変えなかった。しかし、チャイムが昼休みの終わりを告げる。

「もう五限だ」

優実はあきらめたように立ち上がると自分の席に戻って行った。

「なんか珍しい反応だったな」

優実の行動を大島はそう評した。佐々木もうんと頷く。

「そうかもね。―まあ、いいじゃん。席戻ろう」

そう言って、二人も席に戻っていく。

「じゃあ、またあとでね」

あかりも立ち上がり手を振り戻っていく。

「うん、あとで」

千穂もへらっと笑って手を振った。

「やっぱり弟なんだね」

「みたいだね」

千穂はこそっと武尊に話しかける。その様を見ていた轟は言った。

「やっぱり二人って仲いいよね」

「「そんなことない」」

揃った声に、轟は面白そうに笑った。


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