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宇宙から還りし王第17回●ゼリシアの山稜王ネイサンの宮殿にいる、暗殺者、ケインの意識に、今度は出版エージェント、ネフターの記憶が、ケインの頭の中に組込まれる

宇宙から還りし王(山稜王改題)第17回

(1978年作品ー2020年改訂)

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

http://www.yamada-kikaku.com/


●ゼリシアの山稜王ネイサンの宮殿にいる、暗殺者、ケインの意識に、今度は今なくなった出版エージェント、ネフターの過去の体験が、ケインの頭の中に読み込まれる。



■出版社とコンテンツ会社が並らんでいるニューアーク、ヤルタ=ストリートを

ネフターが歩いてい

た。

頭はほとんどはげていて、後頭部にすこしまき毛が残っている。

いつも体を折りまげて歩いている。

年齢は57歳で独身だった。

東欧共同体からの亡命者で、今はアメリカ大国に住んでいる。


 ネフターは出版エージェントとしては二流だった。


彼はこのヤルタ=ストリートで数々のベストセラー・コンテンツが生まれ、売り買いされていくのを指をくわえて見ているだけだった。


彼と契約している作家たちはベストセラーになるのにはおこがましい三流の作品ばかりを書いていた。


彼が育てようと努力した作家は、売れる作品を書きだすと、ネフターと

おさらばして別の出版エージェントにくらがえした。


 「この恩しらず」と彼はその作家にどなりつけ、本の山をなげつけ

た。

 東欧共同体から逃げ出した時、彼には語学の才能しかなく、最初

はしがない翻訳書のゴーストライターとして糧を得ていた。


 やがて彼の訳した本が何冊かベストセラー近くまで行った時、彼

は出版エージェントの仕事に乗り換えた。


がアマエリカ大国、ヤルタの出版界コンテンツ界はそう甘くはなく、

いまだにベストセラーの鉱脈にはつきあたらず、年月を重ねてきたのだ。


 背を丸めて歩いているネフターを呼びとめる声がある。


 「ネフター、ネフター」

ネフターは空耳かと思った。

 「ネフター、お前だよ、私が呼んでいるのだ」


ネフターは歩を止めた。声はヤルタ通りの横の暗がりから聞こえている。


 「おい、俺は金はもっていないぞ、追いはぎをするなら他の奴を選べ」

心なしかネフターの声はふるえていた。


「追いはぎだと、バカをいうな。逆に君を金持ちにしてやろうとい

うのだよ」声は冷やかだった。


 「金持ちだと、俺をからかうのをやめろ」

ネフターは逆に怒りにとらわれて、声のする方へ進んだ。眼があった。


 その眼は人間の物とは思えない。人間以上の何かだった。

 「ネフター、私の原稿を出版しネットに流通したまえ」


 普通の印象を与える男だった。


その男の前でがくと思わずネフターは足がくだけ、膝をついている。

 男の声はネフターの心にしみいり、頭の中でもこだましていた。

それは有無を言わさぬ力強いものだった。あらがいようもない。


 「わかりました。出版社に交渉いたします。で、あなたのお名前は」


丁寧な口調でついしゃべってしまう。


 「ロバート・H・ネイサン」


男は静かに言った。

 「あとの連絡はどうしたらよろしいでしょう」

 「私の方から君にする。それでいいな」

 「わかりました」


 男はくるっと後を向き、闇の奥へ消えた。うす暗がりに続く者が

いた。


ネフターの方をふり向きにやりと笑う。ネフターは背すじが

ぞくっとした。


そいつは宇宙から連れてきたかと思われる「キメラ獣」だった。


●宇宙情報省暗殺要員ケインの意識の旅は続いている。


(続く)宇宙から還りし王(山稜王改題)

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

http://www.yamada-kikaku.com/

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