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異世界転移のボスバトル

「文芸部の異世界転移ツアー、本日午前の分は予約終了となりましたぁ。

 引き続き午後は、ただいま14時15分以降のご予約となりまぁす」


 文化祭二日目。

 今朝は開始直後から長蛇の列が出来上がり、急遽予約制となった。


 部長が立てた予約ルールは、大まかに3つ。

 一つ。参加費500円は前払いする。

 一つ。予約をしても、最大で15分は待たされる場合があることを了承する。

 一つ。予約時間に10分以上遅れた場合は強制キャンセルになることを了承する。

 予約は15分刻みにし、合間で積み重なった空き時間や予約客を待つ間などに、並んでいるお客を一組ずつ入れるという仕組みだ。

 文化祭というイベントの性質上、予約金がゼロだと予約だけして来ない客が大勢出てしまう。本当に参加したい人のためにも、前金制と時間への了承は必要なルールだったと思った。


 予約ルールを書いた紙を事前に用意していた辺り、部長は流石である。

 聞いた所によると、昨日の午後から増え始めた客の入りを見て、昨夜作っておいたらしい。

 先の見通しと言うか、頭の回転と言うか。こういうとこは素直に尊敬するよな。とか言ったら、真っ赤になって照れてた。おもろい。

 ぼくもぼくで入り口前の受付のマニュアルや資料と、万が一の根回しをしておいたんだが……ぼく達にはマニュアルなんか必要ないし、使わずに済めばそれに越した事はないよな。


 そんなわけで、異世界転移ツアーは大好評である。

 大好評の一番の理由は、きっと―――



「勇者様、素敵ですわ」


 参加者のすぐ横で、飯野先輩がいつもの眼差しで微笑んだ。

 街娘という設定なので、服装は素朴なエプロンスカートだ。ただし丈は膝上である。

 部長が指定したのは洋服のジャンルや使い道だけなので、ミニスカートにしたのは緑さんのオリジナルだ。ぼくのリクエストではない。


「はい、喜んで……」


 参加者は真っ赤な顔に上ずった声で、飯野先輩にプロポーズした。先輩が笑顔でプロポーズを受ける感動の場面である。

『黒いマント』を手に入れた冒険者は、美人の村娘と結婚して幸せに暮らしましたとさ―――

 といったところで300秒が経過。現実世界への帰還の鐘となるアラームの音が、彼の異世界転移冒険譚に幕を下ろした。


「あ、あの―――!」

「はい、ありがとうございました。

 異世界の住民との記念写真は、異世界からの輸出に異界関税がかかるため一撮影800エンとなります。いかがなさいますか?」

「よ、よろしくお願いします!」


 部長の指示通り、三次元美人に免疫のないオタクから、容赦なく金をふんだくる。

 もちろん写真撮影は、営利目的や譲渡・アップなどは全面的に禁じており、その旨の一筆も書かせている。

 犯罪を100%防ぐことは不可能だが、抑止力にだけはなるはずだと信じたい。


……しかし、ゲームの参加費より写真が高いって、どうなのよ?

 昨日の気合の入ったカメコなんか、一人で七枚も写真を撮っていた。参加費とあわせて6000円以上である。すげぇ。


 最後に、登場人物の手作りお菓子(これはやらせではない。本当に飯野先輩手作りのクッキーだ)を手渡して終了。

 いい夢を見たお客さんは、きっとまた来るか他の客に良い宣伝をしてくれるだろう。



―――とまぁ、こんな感じで。

 スレンダーなほんわか美女の飯野先輩に、出現頻度レアな爆乳ロリのハニーボイス美少女・緑さん。

 それに、残念系ミステリアス美少女(声に出すと殴られるのでみんな注意してくれ)の部長。

 いずれ劣らぬ美女美少女と、300秒限りの異世界でお知り合いになれるからだろう。

 ぶっちゃけ、顔で釣ってるだけという気もするが、それは考えたら負けだ。


 登場人物としてのぼくの出番も、二日で3回くらいあった。

 女性参加者相手のイケメン冒険者役が2回と、商工会の悪徳商人役である。

 部長の台本通りに壁ドンの真似をしたら、参加者さんが真っ赤になって照れてくれたのがちょっとクセになりそうだ。


 なぜか途中で、誰かから足を蹴られたけどな。複数回。

 台本通りやっただけなのに。他のみんななんか、しつこく携帯番号聞かれたりナンパされてるのに。

 なぜにぼくだけが。げせぬ。




 次の参加者は、げらげら笑ってばっかりのうちの一年だった。


 お前、うちの出し物のこと笑ってるけどな?

 1時間待ちのうちの出し物にずっと並んでそわそわしてたの、ぼくは知ってるんだからな?


 こいつはちょっと悪いことに手を染めようとして、闇ギルドで部長とご対面。

 緑さんの作ったおどろおどろしいBGMの中、突然暗くなった室内で部長とこんにゃくに襲われて悲鳴を上げていた。

 ざまあみろ。じゃなかった、またのお越しを~☆



「あっはっは、いい顔してたわね!」

「こんにゃくなんて、いつ用意したんだよ……」


 ご丁寧に、ほうきの先に糸を結んで、そこにこんにゃくが吊るしてあった。

 それを、なぜか頭に和風幽霊の三角巾をつけた緑さんがヒットさせたわけである。


「三角巾までいつの間に……君たちノリノリだね」

「さっきみどりが端切れを使って作ってくれたわ!」


 部長がぼくの分の三角巾を手渡してくれた。

 いや、司会は顔出さないんだけどね?



 次のお客さんは、お父さんと娘の二人連れで、娘さんだけが参加だった。

 なんだか偉そうな態度で、父親に異世界転移とは何かを熱く語ってる姿が素敵でした。

 この子、できる子だ。将来有望、あるいは早めに現実に帰った方がいいと思う。急げ、手遅れになる前に!


 そんなわけで、女の子は。

 やたらと訳知り顔で、SPボーナスだの経験値ボーナスだの、三日鉄人だのと薀蓄をのたまってるうちに300秒が経過して異世界転移終了。

 あわや泣き出しそうになり、仮装したスタッフ三名がお菓子をあげてなんとか笑顔で帰っていただくというハプニングでした。

……ぼく手作りのクッキーも、極レアだけど一応あるんだ。味も、まあ食えるんじゃないかなというレベルになってる。芸術の神様ありがとう。



 さらにみんなで、何組もの客を捌き。

 少しだけ空いた隙間の時間。入り口前を飯野先輩が引き受けてくれたので、他の三人でお茶を飲み深い息をついた。


 ぼくは司会進行があるからほぼずっとしゃべりっぱなし。たまに登場人物をやる以外、他のことに手を回す余裕は一切ない。椅子から立つ暇もない。

 部長と飯野先輩と緑さんの三人で、ヒロインが一人と、入り口前の受付には常に一人。

 残った一人がぼくや忙しい箇所のサポート、余裕があれば少しだけ休憩だ。

 話が進んでヒロインに抜擢されてしまえば出ずっぱりだし、そもそも登場の予兆がある時点で着替えてスタンバイしなければいけない。

 入り口前は入り口前で、列整理、予約、説明、お金の管理、ごくたまに来る文芸部の部誌販売の応対など、やることはてんこ盛り。

 BGMやステータス表示、背景などまで司会をしながらぼくが全てやるのはかなり厳しい。なのでサポートだって細々とした作業がたくさんある。


 正直言って、きつい。

 ぼくはしゃべるだけだし肉体的な疲労はないが、何度も着替えたり立ちっぱなしの女性3人は交代で休憩しててもかなりしんどいだろう。

 こんなもん、四人で長時間やる内容じゃないよな。


「はぁぁ……」

「緑、大丈夫?」

「ちょっと疲れましたぁ……」


 一番体力がない緑さんが、かなりお疲れの様子だった。昨日も午後半日頑張ってたもんな、足だってきっと筋肉痛なんだろう。

 顔色も少し赤いし息も荒い。今日は朝から頑張っていたからそろそろドクターストップすべきかもしれないな。


「ひとみも受付とヒロインしかやってないから、ずっと立ちっぱなしよね。

 頭が下がるわ」


 時計を見れば、9時開始で今は12時直前。休憩までは、まだあと2時間もあった。

 文芸部の休憩は14時~14時半の30分としており、この時間は一時閉店して皆で休憩と食事。校内を見て回る余裕はないと思う。

 それ以降は、終了の18時(最終日は17時)までラストスパートである。


「部長。やっぱり、ここはお客さんに頭を下げても、休憩を入れるべきだ。

 ぼくはともかく、三人ともこのままあと2時間は厳しいよ」

「う、ぐう……」


 ぼくの言葉に部長が呻く。

 昨日から通しての緑さんの状態や自分自身の疲労、休憩してない飯野先輩の事を考えれば、理屈では休憩すべきだと思ってるんだろう。


「でっ、でも!

 やるって言ったんだし、お客さんだって時間をきっちり決めて予約してくれてるのよ?

 予約金まで取っているのにそれをずらすことなんて出来ないわ」

「―――はっ!?

 あ、私も大丈夫です!」


 意地になってるのか理論的なのかいまいち判断つかないが、部長がぼくの提案を拒み。

 状況が分かってるのか分かっていないのか、おそらく寝かけてた緑さんが慌てて部長に賛同した。


「……はあ。

 飯野先輩も、休憩せずに続けるべきって言うならそれに従うけど。

 入り口前、代わってくる」


 次の予約時間までは、まだ3分くらいある。

 言いたいことは言ったし、少しでも先輩も休ませてあげたい。ぼくはお茶を飲み干すと入り口前に出て先輩と交代した。

 先輩も、他の二人よりは元気そうだったが、休憩はありがたいようで素直に下がってくれた。



 部長と先輩がどんな会話をしたのかは分からないけど。

 3分経って入り口前に出てきた先輩は、あと2時間頑張ろうと言ってくれた。


 再開前に、ぼくは無言で参加者側に椅子をもう一脚追加した。

 ヒロインが座るための席である。

 これについては、部長も否定せず黙認となった。



 それから続く2組は、やや説明や事後に時間がかかったものの、無事に過ぎた。

 最初の組は部長が入り口前に出て先輩がヒロインとサポートをし、三人で少し無理したが緑さんを休ませることも出来た。


 12時半までほんの少しだけ間が開き、予約客がまだ来ていなかったので並んでいる人間を入れる。

 これが―――並んでいる人間を入れたこと自体が、悪かったわけじゃない、マニュアル通りの行動だった。

 だけど、運だか間だか、何かが確実に悪かったんだ。



 まず、予約の合間で入った客が色々文句を言い、事前説明でいちいち難癖つけたり無駄にえらく時間を取った。

 300秒の異世界転移を開始する時点で、相当な時間オーバー。

 最後には、女神ということで部長が、強権を発動しキャラメイク打ち切りで勝手にスキルを振り、300秒の計測開始。

 そうしたら何を思ったか、こいつは異世界につくなり、やや大声で300秒間文句を言い続けた。

 緑さんが眉をひそめ、飯野先輩が入り口前から心配そうにこちらを見て。

 女神どころか素でキレそうな部長は、ぼくが必死に口を押さえてとどめた。


 こういう手合いは、駄目だ。

 文句を言って、相手を怒らせたり、不快にすること自体が目的なんだ。

 言い返せば喜ぶだけだ。ひたすら聞き流せ。


 そういうのの苦手な部長はひたすら荒ぶっていたが。

 異世界につくなり、無人の平原でひたすら叫び続ける怪しい人間。

 2分半が経過したところで、ぼくは淡々とモンスターを出現させ。

 何もしないでただ騒ぎ続ける人間を、ルールとダイス判定に則って、狼として食い殺した。


 くそげーだなんだと喚き立てる男に、事前説明してあった通りの世界設定とレベル1でのモンスターとの力量差を説明し、死んだことを懇々と説明する。

 結局死んだ説明を含めて300秒以上取られ、時間になりましたということでやや強引にお帰りいただいた。

 部長は最初から最後まで不満な顔をしていたが、それでもクレーマーが居なくなってあからさまにほっとしていた。

 緑さんに至っては、顔面蒼白で震えるくらいおびえていたから、無事に済んで本当に良かった。



 だが、本当の問題はそれからだった。


 さっきのクレーマーについては、ひたすら文句を言っていただけだから、基本的には向こうが悪い。

 だが次の客は、12時半の予約客。

 時刻は、クレーマーに時間を取られ過ぎたせいで、すでに12時50分になろうとしていた。


「てめぇら、20分も待たせるとはどういうことだよ、ああ?」

「想定外のトラブルがございましたため、お待たせしてしまい申し訳ございません」

「ふざけんなよ、外にも最大15分って書いてあったろうが。

 どう落とし前つけるんだよ、てめぇらどうすんだよ!」


 こいつもまた、大声で騒ぎ立ててくるが、直接的な暴力や機材の破壊はしていない。

 先輩も裏に下がらせ、マニュアル通りに、懇切丁寧に誠心誠意お謝りする。

 腹の中? もちろん怒ってるよ。でも、こっちにも非はあるんだしまだ我慢しなきゃいけない範囲だ。


 散々にわめきたてていたが、まぁ要求や落としどころを要約すると、うちの美女全員を侍らせて好き勝手したい、ということだった。

 分かりやすい。

 実に分かりやすい、下種野郎である。


 この発言に部長がキレて怒鳴ってしまい、また騒ぎになり。

 結局、部長を押しとどめて飯野先輩が出て、異世界転移直後から行動を共にするということで一旦は収まった。


 緑さんは恐怖のためか何なのか、顔色が悪かったので裏方待機。BGMだけをお願いする。

 部長には入り口前に出てもらうことにした。


「……みどりに出てもらうわけにもいかないし、あたしが入り口前に出るけど。

 すべる、2人を頼んだからね」

「もちろんだ、任せろ」


 短く言葉をかわし、見送る。




「あなたにはこれから、異世界へ転移してもらいます。

 そこで何を為すかはあなたの自由ですが、あなたは常に大いなる存在に見られていることをお忘れなきよう―――」


 飯野先輩が女神役として、一部変更したナレーションをしてもらう。

 そんな女神に対し、下種野郎は堂々と


「お前は人間になって、俺の奴隷として一緒に異世界に来い。異論は認めねぇ」

「わかりました」


 迷うことなく頷く飯野先輩に、ぼくは少し困った顔をする。

 でも、大丈夫と微笑まれただけだった。


 そうして、下種野郎の異世界転移が始まった。



 転移が始まるなり、冒険や行動というかナレーションのぼくを無視して、下種野郎は飯野先輩とだけ話を始めた。

 その会話内容は、正直、聞くに堪えない卑猥なものばかり。

 それでもひたすら、意味が分からない、何のことだか分からないとかわす飯野先輩は流石だったが。


「てめぇ、主に逆らう奴隷があるかよ。

 黙って俺様の言う事を聞けばいいんだよ!」


「―――お断りします」


 酷い会話の果てに、ついに飯野先輩も演技をやめてため息をついた。


「なんだてめぇ、自分で決めたルールも守らずに好き勝手かよ。じゃあ俺も、異世界らしく好き勝手してやるよ!」


 奴が腕を伸ばして飯野先輩を椅子から引きずり寄せて。


「やめなさい!」

「そこまでにしてもらおうか」


 ドアが開き、部長が飛び込んで来たのと。

 魔王スタイルになったぼくが、奴の腕を捻り上げたのは同時だった。


「って、いてぇ、何しやがんだてめぇ!」


 部長を、目線で下がらせる。

 入り口前をおろそかにしてはいけない、トラブルが起きてると知られるのも良くない。

 ここは、ぼくがやるから大丈夫だ。


 そういう気持ちを込めたが、残念ながら伝わらなかった。

 ドアも閉めず、部長はそこでじっと見つめ返す。

 仕方ない、このまま進めるか。


「お前は、異世界へ転移する者としての、禁を犯した。

 ゆえにこうして、私に裁かれるのだよ」

「なっ……なんだお前、その格好?」

「私か?

 私は、第一の転移者にして、この世界を統べる魔王である」

「は……はぁ?

 ば、ばかかお前?」


 一度、捻った腕を離し。

 先輩を抱き起こして、こっそりと頭を撫でる。


「この女神が言っていただろう、大いなる存在に見られていると。

 それが、魔王として神にも等しい力を手に入れた、この私である!」


 わざとらしく、仰々しく両手を挙げて振り向く。

 呆然とした部長の開けたドアの向こう、入り口側に並んで居た人たちの一部がおーとか言って拍手してた。


 ちょっと恥ずかしいけど、頑張る。


「さあ、我が裁きを受け、この世界でも元の世界でもない冥界に落ちるがいい!」

「な、はんっ!

 ならてめぇらのルール通り、貴様をぶちのめして後ろの奴隷を俺のものにしてやらぁっ!」


 言いながら、男が腕を振りかぶった。

 無駄に大振りの拳を、インパクトをずらして頬で受ける。

 地味に丈夫な魔王の兜のおかげで、ダメージはない。


 緑さん、この兜どんだけ頑丈に作ってるんですか。

 わりと重いし、これ金属とはいかなくても木材ぐらい使ってるんじゃないですか?


「って、なんだてめぇ、まじもんの兜なんか被って!」

「私は魔王である。そのような脆弱な人間の拳が効くものか。

 レベル1の人間で私に手傷を負わせたくば、自爆でもしてみせるのだな!」

「くっ……ふざけんじゃねぇ!」


 今度は鎧に覆われていない、腹を殴ってくる。

 だがそこなら、鎧などなくても筋肉だけで十分に防げる。


……十分に防げると思ったんだけどなー。地味に痛いなー、随分と衰えてるなー。


「……それで、全力か?」

「くそ、なんだてめぇ、なんなんだよ!」


 全く効いていない様子に、あるいは本当にぼくが魔王に見えてきたか。


「私か?

 私は―――」


 傍らの飯野先輩を。

 暗幕から顔を覗かせる緑さんを。

 そして、不安そうな部長を、それぞれ順に見つめて。


「私はこの世界を守る魔王、スベルク=テイハだ!」


 ぼくの仰々しい名乗りに。


 一呼吸置いて、意味を分かったらしき部長がぶっと吹き出した。

 おい、空気読めよ! 笑うとこじゃねぇよ!


 だが、一度緩んだ空気は止まらない。

 観客からも失笑が漏れ、飯野先輩もうつむいて肩を震わせている。

 緑さんも顔を引っ込ませたところを見ると、裏方で声を殺して笑い転げてるんだろう。あの子、笑い上戸だからな。



 それでも、周り中の笑いを自分に対する嘲笑に捉えたか、男は真っ赤な顔で立ち上がった。


「う、うるせえ!

 何が異世界だ、何が魔王だ! ぶっこわれちまえ!」


 そして傍らの椅子を掴み、いきなりぼくの頭に振り下ろした!


「ぐっ、つ……」

「おらてめぇ、魔王だかなんだか知らねぇが死ねよ!」


 再度振り下ろされた椅子に、流石の魔王の兜も壊れ飛び、ぼくも一瞬だけよろめいた。

 慌てて取り押さえようと観客たちが詰め寄り―――


「ばかものぉぉぉっ!」


 最後まで魔王の演技をやめなかったぼくは、相手の胸倉を掴み。

 ノリノリで手加減抜きの頭突きをぶち込み、一撃で相手を沈めたのだった。


「飯野先輩ずるい、魔王様のたくましい腕にさらわれるのは私の役目だって言ったのに!」


「私は村娘として、穏やかに一緒に暮らして行きたかっただけなのに……

 でも、魔王と女神というのもありなのかしら?

 ねぇまほちゃん、どう思うかなぁ」




「すべるが、すべるが、世界をすべる魔王……」




「……あれは、3日くらい駄目なパターンだよね」

「そうねぇ。

 まほちゃんはもう復活しそうにないし、この後は私たち2人だけでじゅっくんと一緒に過ごしましょっか」

「はーい」




「しかも、スベル=ハイテク……ぷっ、くくく……」


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