ギョベクリ・テペ
ギョベクリ・テペはトルコとイラクの国境付近、アナトリア南東部、シャンルウルファという街の郊外にある遺跡だ、私は自分の添柱アレスティーナにペトロを乗せて遺跡に向かう。
『ペトロ、本当にあそこが封印の土地なのか?』
『間違いは無い、教授と3研究所で密かに研究した答えだからな』
『しかし本当に我々がデシメーターをあつかえるものなのか?』
『すでにこの身にはデシメーターの力が宿っている、何度も実験を行った、ギョベクリ・テペで見つかったデータと相違無い、あくまで今回の封印解除はデシメーターの力をフルに使う為だ、それにしてもナタナエル、此の期に及んで怖気付いたのか?』
そう言われても仕方ないか……
『勇者からデシメーターを操る力は授かった、現に小型のデシメーターをレーゲンスブルグに出現させる事も出来た』
『確かにな……しかしよくもこんな計画をあの勇者が認めてくれたものだな』
『人類の危機であることはよく理解してくれたし、何よりもあの白き龍の戦士との戦いを望まれたのだ』
『そうか、しかし勇者と白き龍は一体なんなんだ?』
『私にも確かなことは分からない、だが勇者からは我が主人と同じ力を感じた』
『そうか、ならばこれも主人の意思なのかもしれないな』
話をしているとギョベクリ・テペの上空に着いた。
『さて約束の時間だ、教授はいるかな?』
ギョベクリ・テペ遺跡の中、薄っすらと明かりが灯る、教授は私達の到着を待っていたようだ。
『クラウス教授、久しぶり、元気そうだね』
ペトロは教授と軽く握手をする。
『ふん、オマエも元気そうだなペトロ』
『上空から辺りを見回してみたが、だいぶここは整備されたみたいだな』
『一応世界遺産だしな、トルコ政府も観光地化と保全に積極的に動いている、金になるからな』
私とペトロ、教授の三人で薄暗い遺跡を進む。
『今回の計画が無事終われば、人類はまたこのギョベクリ・テペを造るかな?』
クラウス教授は予想外の質問を受けて大笑いをしている。
『ハハハハ、そいつは考えもしなかったよ、オマエは本当に面白いなペトロ、さてとここじゃ』
教授は遺跡の中にある小さな窪みが密集している広場を前に足を止めた。
『沢山窪みがあるがこれがデシメーターの封印なのか?』
『ああ、この小さな窪みに火を灯すのさ、どれ、オマエらも手伝え』
教授にロウソクとマッチを渡される、三人で窪みの中に火を灯していく。
『綺麗なものね……』
ギョベクリ・テペ遺跡の中、小さな窪みに光り揺れる灯火は幻想的で美しかった。
暫く火は揺れたが、風が吹いた、そして全ての灯が消えた。
『さあ、これで封印は解けたはずじゃ』
『これだけか? あっけないな』
確かに想像よりも簡素な儀式だった。
『ああ、ただ封印を解いただけじゃからな、発動には別の要因がいると思う』
『だな、まあ目星は付いている、だから今回作戦を発動した、それよりここはまだ第一層だろ? この下には何がいるんだ?』
教授は懐からタバコを出して一服している。
『この下か、やめておけ、この下はオマエ達の主人より古い物が埋まっている、それは恐らく人類の始まり、神と人の始まりだからな、わしもあんまり掘る気しないしな』
古い遺跡には盗掘の気を削ぐ結界が敷かれていることが多い、その一種だろうか。
『そうか、教授』
ペトロは右手を差し出す。
『ありがとう、本当にありがとう』
『ふん、今日のオマエは柄にも無いこと言ったりやったりするのう……』
そう言いつつも教授はペトロとしっかりと握手した。
『もう少し詳しくギョベクリ・テペについて聞きたいところだが、時間が無いので私とナタナエルは戻るよ』
『新しい時代は若者が作らなければな、この老いぼれにはもう時が無い、無責任な行為だとも思うがオマエらに賭けてみるさ』
『本当に良いのか? 貴方も、そして貴方の大切な人達も変わってしまうのだよ?』
『それが人類の為ならばいたし方あるまいて』
それから私とペトロはアレスティーナに乗りこみギョベクリ・テペを後にした。