――――ギーッ、バタン!!!――――
さて、あれからさらに進んで49階から最期の50階に下る階段を見つけた訳だが。
『これですわね』
『左様でございますな』
階段の手前、開封済みの宝箱の脇に三体の石化した人型があった。
どうみても三人はそれぞれ、第三使徒ヨハネ、第五使徒フィリポ、第七使徒マタイその人達。
みな驚いた表情のまま三人とも見事に固まっている。
『うーーん、フィリポも良い表情ですわね』
お嬢様はふふふと笑みを浮かべながら三人をまじまじと眺める、少し意地が悪いような。
『宝箱を開けた瞬間に仕掛けてあったトラップに引っかかってしまったようね』
『察するに何も出来ないまま瞬時に石化したみたいですな』
『このタイプのトラップは、宝箱を開けた瞬間に8方向から同時に呪文が飛んで来ますからね、一番に石化をガード、他の毒や炎、冷気などは装備と後からの治療で対処するしかないですからね』
『処理の順番を間違えるとこうなる訳ですな』
『ある程度慣れたパーティでも、宝箱を開けた瞬間各人の位置関係が悪いと処理が難しいですわね』
お嬢様は石化した三体の前で草薙剣を振る。
核種変換錬金の応用で次々と石化を解除していった。
『『プハーっ』』
お三方は解除されると床にへばりこむ。
『助かりましたミコト様』
三人のなかで一番の年長者であるヨハネ様が感謝を述べる。
『いえいえ暫くこちらで厄介になるので槍働くらいはいたしますわ』
フィリポ様は悔しそうな表情だ。
『ミコト、本当にすまない、三人で50階一番乗りを競っていたらこんなトラップにかかってしまった』
『………貴方達らしいですわね』
『私は別に功を焦った訳ではありません』
三人の中で紅一点、マタイ様はあまり反省の色がみられない。
『お嬢様でなければ簡単に石化解除は出来ませんでしたな、通常ならお三方を地上に石化したまま持ち帰り、何週間かかけて徐々に解除する流れになるかと』
少し嫌味を言ってみる。
『ハッ、感謝しております』
嫌味が効いたのかマタイ様は軽く頭を下げた。
『しかしダンジョンクリアぎりぎりでトラップにかかってしまったんですね、もう少しだったのに』
『はあ、マリア様はお怒りでしょうなあ』
ヨハネ様は天を仰ぐ、というかダンジョンの天井を仰ぐ。
『この階も既にクリアになりますから、あとは最終50階を残すのみですね』
『はい、我ら三人とそちらのお二人方がいれば最終階も難なくクリア出来るでしょう』
『ヨハネさん気を緩めないでくださいね』
『はっ、これは失礼しました』
『それでは最終フロア大世帯で参りましょう』
長い階段を降り、たどり着いた最終50階は大きなワンフロアになっていた。
『かなり広いですわね』
どうだろう、野球場がすっぽり入りそうな程の広さだ、天井もなかり高い。
広い、広いフロアの奥――――
お三方の石化である程度予測はしていたが、大型コカトリスタイプのデシメーターが待ち構えていた。
一応全員で気配遮断を敷きながら階段を降りてきたが気づかれていたようだ、まあ、入り口は一つしか無いし、気づかれるのは仕方無いか。
運が良ければ、こちらから奇襲でファーストアタック出来るかと思っていたが、そこまで楽はさせてくれないようだ。
『大型のコカトリスタイプですわね、戦闘開始します』
お嬢様はマントを翻す。
『アタッカーは私が、徳重は爆薬で辺りを不整地に、ヨハネは回復、フィリポは私に強化の魔法を、マタイは遠距離攻撃魔法を!』
『承知!!!』
各人一斉に散らばり各々の役割へ動く。
同時にコカトリスタイプのデシメーターも強化の結界を何重に展開した。
私も全体を崩落させない程度に爆薬を調整し、床を順次爆破する。
『『キキキキィイイイイイイイイ』』
次々と連鎖的に爆破が起きる、ああいった大型タイプのモンスターは地面に穴を開けてやるだけでかなり動きにくくなるものだ。
『上出来です! それでは!』
『ハイ! 行きますよ! ミコト様!』
マタイ様の遠距離攻撃でサポートを受けながらお嬢様は一気に間合いを詰める。
それを読んだかデシメーターがマタイ様の遠距離攻撃をあえて受けながら、お嬢様の進行方向にブレスを吐いた。
『!!!!!!』
まともにブレスを受けたお嬢様は壁に叩きつけられる。
壁が崩れ、お嬢様の身体はこちらからは視認出来ない。
『お嬢様!!!!』
――――ビュ!!!――――
『!!!!』
砂煙を引き裂き閃光がデシメーターを貫いた。
『多少頭が回るデシメーターのようですね、ナイスタイミングですわフィリポ』
遠くでフィリポ様が軽く手を挙げる。
うっすらお嬢様の身体を加護の光が包んでいる、恐らくはお嬢様がブレスを食らう直前にフィリポ様が防御を強化したのだろう。
『『キキキキィイイイイイイイイ』』
仕留めたと思った相手から反撃を受けデシメーターに混乱が見える。
『さあ皆さん攻撃再開ですわ』
お嬢様は草薙剣を構え狼狽えるデシメーターへと壁を蹴った。
――――――――――――
1時間ほど戦闘は続いたがお嬢様の一撃がついにデシメーターの額を貫く。
轟音を響かせデシメーターは倒れ、そして跡形も無く消えた。
『さてと、これでダンジョンクリアですわね』
ダンジョンの主を倒したのでデシメーターが居たほう、入口と反対にある扉が開くはずだ。
いつも通り反対側の扉がゆっくりと開く。
『さあ、このダンジョンも間もなく消えます、急いで出ますよ』
お嬢様が出口に向かって歩き出した時だった。
――――ギーッ、バタン!!!――――
『…………』
出口の扉がひとりでに閉まってしまった、ふうむ……
『やはりといいますか、まだ終わりでは無いということですわね、三人共……』
『ふふふ、いつから気づいていたのですか?』
質問に答えながらヨハネ様がお嬢様と距離をとる。
『そうですね、まあいつからかと言われれば初めからでしょうか?』
『ほほう……』
『まず貴方達三人でダンジョン攻略に失敗するなどということは考えにくいですから、そしてペトロがわざわざ私を指名するのもおかしな話です、今頃は私をバチカンから遠ざけて何か仕込みでもしているのでしょう』
『デシメーターの作ったダンジョンは、柱神を呼び出せない結界が敷かれていますから、私を始末するにはここしかありませんし』
『ほう、分かっていながら何故罠にハマるようなことを?』
『あのままアンダーノアに居座れば裕也様にも何か仕掛けてくるかもしれませんし、それならば私が罠にかかる方がマシなので、それに……』
お嬢様はスラリと抜刀する。
『わたくし少しせっかちなので、罠ごとサッサと排除するのが一番手っ取り早いかと』
お嬢様は相変わらずだ!
『今度はこちらから質問です、何故です? 何故貴方達はマリアを、五皇を裏切ったのですか?』
向けられた草薙剣を前にフィリポ様は両腕で魔力を練りながら答える。
『ミコトも知っていると思うが、このままいけば人類は滅びる、ゆえに仕方のないことなのだよ』
『3研究所の研究結果を受けてですか? 確かに分からない話では無いですが』
『12使徒のほとんどが我々の考えに賛同しています』
マタイ様もお嬢様との距離を測る、今やお三方に我々は囲まれる形だ。
『知らないのは長期間バチカンを離れていたソーニャ、未熟なダダイとシモン、それら以外の使徒は全てこの計画に賛同もしくは中立の態度を示しています』
『ソーニャを誘わなかったのは賢明な判断ですわ、流石はペトロ』
『?』
『あの子は参加しないでしょうからね、ふふふ』
『初めからこちらも無いと考えていますがあえて伺います、ミコト様、こちら側に付いては頂けませんか? 人類の危機的状況を救うには我々のやり方が一番可能性があるのです』
マタイ様の問いにお嬢様はふうと溜息をつく。
お嬢様はこのダンジョンに入って初めて草薙剣の力を全解放する、周りの空間が揺らぎだす、そしてこちらに軽く目配せをした。
『マタイ、そしてそこの二人、問いに答えます、命は取りませんから三人共かかって来なさい』
『……ふう、やはり理解は得られませんか』
三人の魔力が一気に膨れ上がる。
ガラガラと辺りの壁や天井が崩落する。
あまり派手にやるとダンジョンが崩れてしまうか……
しかし12使徒のお三方を相手にするのだ、先ほどのコカトリスなどとは比べ物にならないし、加減など出来るとは思えない。
いざとなればダンジョンを崩しお嬢様だけでも逃がすことも考えなければ。
退路や状況を考えつつ、久しぶりに私は人間相手に苦無を放った。