やだ、ミコトさんなんかまだ変なこと言ってる……
『あいつら帰ってきたら社会奉仕活動一か月の刑ね、あーーあ、後でマッターホルンも治しに行かなくちゃいけないわね、ハアーーッ……』
マリアは深いため息を吐いた。
なんだか色々大変そうだなこいつも。
『我が弟子達の醜態、まことに申し訳ございませんマリア様』
ペトロさんが深々と頭を下げる。
我が弟子ってことはあの二人はペトロさんの教え子なんだね。
『ああ、別に気にしなくていいわよ、もう半分諦めてるし』
マリアは手をヒラヒラさせながら答える。
『それよりヨハネ、フィリポ、マタイ達をどうするかよ?』
『その3名に何かあったのですか?』
マリアは自分の髪をクシャクシャっと掻きながらミコトさんの問いに答える。
『ミコトにはまだ伝えて無かったかしら? レーゲンスブルグのダンジョンを攻略させてたんだけど、3日程前から連絡が途絶えたのよ』
『あら、あら、あの三人にしては珍しい、ダンジョン攻略なんて何回もこなしているのに』
『うーーん、そうなのよね、あいつら三人で手こずりそうなデシメーターの反応は無いんだけどね、それで捜索隊を送らないといけないのよね』
なんだか話がサッパリ分からない? ダンジョン? ゲームみたいな地下迷宮が何処かにあるのか?
『あのう、ミコトさん質問なんですけど、さっきからダンジョン攻略とか言ってますけど、なんなんですか?』
『ああ、裕也様には説明していませんでしたね、こちらのデシメーターは先程のマッターホルンのように地上に現れるタイプもあれば、いきなり都市に地下ダンジョンを作って一般の方々に危害を加えるタイプもあるんですよ』
『い、いきなり出来るんですか? ダンジョンが?』
『ハイ、ある日突然都市の中心部などに現れます、どういった基準かは分からないんですけど、特定の人物にしか見えない造りになっていまして、そのダンジョン最深部にデシメーターが巣食っているのです』
『街の人間が誘い込まれたり、ダンジョンから出てきたモンスターに攫われたり、辺りの出生率が下がったり、認知症発生率が上がったりもう大変なのよ』
マリアはウンザリといった感じだ、しかし出生率が下がったり認知症発生率が上がるとか地味に嫌な効果だな。
『マリア様、我々もこれ以上人員を割くわけにもまいりませんし、ここはミコト様に救助をお願いしてはどうでしょうか?』
ペトロさんの提案にマリアは露骨に眉をしかめる。
『あんたね、馬鹿も休み休みに言いなさいな、私達の尻拭いをミコトに頼めるわけないでしょうが?』
『いえいえ、久しぶりにダンジョン攻略も悪くありません、宿代もまだ払ってませんしね、うふふ、ホントに何年ぶりかしら』
え? ミコトさんダンジョンに行く気なのか? ミコトさんはなんか胸の前で拳をパシパシやってる。
『いや、いや、いくらなんでも悪いわよ』
『最近かなり腕が鈍ってましたからリハビリに丁度良いですわ』
『リハビリってあんたこの間デシメーター倒したばかりでしょ』
『柱神を使うのとダンジョンを攻略するのはまた違いますから』
『助かります! 我々もこれ以上一つのダンジョンに人員を割くのは難しい状況でして』
マリアはまだ納得していない感じだが、ペトロさんが二人の会話に割り込むぐらいの勢いで頭を下げる。
『徳重、久しぶりにダンジョン攻略をします、短期型装備の用意を』
『かしこまりました』
ミコトさんはそう言うと入り口の方に向かって歩き出した。
『えっ!? ミコトさん今すぐダンジョンに向かうんですか?』
『ハイ、早めに三人を救助した方が良さそうですからね』
振り返りミコトさんはあっけらかんと答える。
やっぱりミコトさんは思いたったら直ぐ行動だな、俺なら今日は移動で疲れたし休んで明日からとか言いたくなるのにな。
しかしここに自分一人だけとか少し不安だけどなんとかなるかな……まあアトがいればなんとでもなるか。
『それでは行ってまいります』
ミコトさんは入り口の方に歩き出す、しかし数歩進んだ所でピタリと止まり踵を返してきた。
なんだ? ミコトさんは俺にかなーーり顔を近づけると真顔で話出した。
『裕也様、私が居ない間に他の女性とイチャイチャとか駄目ですよ』
あ、目が笑って無いやつだなこれ。
『イヤイヤ、自分全然モテませんから、ふふふ、ミコトさんも可笑しなこと言いますね』
女の子とイチャイチャなんて、そもそもやり方知らんがな(泣)
『マリアもよく監視しておいて下さいね、というかマリアも裕也様に変なことしないでくださいね』
やだ、ミコトさんなんかまだ変なこと言ってる……
対するマリアは暫くポカーーンとしていたが、ブルブルと慌てて首を振り出した。
『ミコト、あんた何言ってるのよ!? こいつに私がなんかする訳無いでしょ!』
『そうですね、そう期待しておきます、それでは裕也様行ってまいります』
そう言うとミコトさんは今度こそ徳重さんと二人で入り口に向かって歩いて行った。
『全く、ミコトも変なこというわよね、あの子なんか少し変わったかしら?』
マリアがそう訝しむ。
あれ? 辺りを見たらアトが居ない、てかアイツいつの間に居なくなったんだ?
本当に一人になってしまった。
あっ、なんか急に場違い感が……
ミコトさんを見送るとマリアはこちらに向き直る。
『さてと、一応あんたのもてなしをしないとね』
『おっ、お・も・て・な・し・があるのか?』
『なんなのよその変な言い方、そうね、ミコトは居ないけど歓迎の食事を用意させるわ、ナタナエル』
マリアに呼ばれたナタナエルさんは軽く会釈をする。
『接待役はあなたにまかせるわ』
『承知しました』
『ハイ! ハイ! ハイ! 裕也君のおもてなしは私がするにゃん!』
ソーニャさんがなんか挙手してる。
『ソーニャ、あんたは今回のデシメーターについてまずはレポート提出しなさい』
『ちぇ、ツマンナイの』
マリアに諭されソーニャさんはブーたれてる。
『裕也ちゃんスマンないにゃ、後日、上の市場とか案内するから』
『別に無理して案内とかいいですよ、ソーニャさんも忙しいそうだし』
『それではナカジマ様こちらに』
ナタナエルさんに促されて俺は大聖堂を後にした。