エピゴノス
たっ高いいいいいっ!!!
うううおおおお落ちてるうううっ!!!
高いなんてもんじゃない!
地平線!
丸い!
見渡す限りの大海原!
どこなんだここ!
突然辺りの景色が変わったと思ったら、そこは空の上だった。
俺は物凄い速度で落下している。
しかし、その、なんか変だーーー
まず音が無い。
落下している感覚はあるのだが、空気を裂いていく音がまるで無いのだ。
そして肌の感覚も無い。
こんな高さなら温度はかなり低いはず。
しかし寒さを感じない。
むしろ何故か少し温かみを感じるくらいだ。
すぐ隣には先程アトと名乗った少女、一緒に落下している。
『一体何なんだよコレは!』
たまらずアトに叫ぶ。
『おまえが私について知りたいと言うからここに来たんだ』
こちらを向きもしないでアトはそう答えた。
会話は通じているらしい。
『だからなんでこんな場所に!』
『私を説明するのにはここが適しているからだ』
適している? なんだ?
なんでこんな事になってるんだ俺は? 夢か?
夢?
夢といえば授業中にオレはウトウトしていて……
なんだかよく分からないパラボラアンテナみたいのが現れて……
そっ……そうだ! 学校はどうなったんだ?
教室はメチャクチャになって……
俺は吹き飛ばされて……
気が付いたら瓦礫の中にいて……
目の前には佐々木が……
『アッ! アト!』
『なんだ?』
『学校は! みんなはどうなったんだ?』
『学校は壊滅状態だ、周辺にもかなりの被害が出ている』
学校が壊滅!?
辺りにも被害が出ているのか……
辺りってどの地域までなんだ?
オヤジ……オフクロ……大丈夫かな……
『なんなんだよ、それ……』
じっと空を見つめながらアトは口を開く。
『事実だ』
恐怖とか怒りとか色々な感情がごっちゃになって落ち着かない。
緊張の糸がプツリと切れチカラが抜けていく。
オレは落下に体を預けた。
なんなんだよこの状況は……
宇宙人が攻めてきたのかよ……
アレが全部現実なのかよ、アホか……
佐々木……死んでたんじゃないか?
オヤジやオフクロも死んだかもしれない……
『なあ……アト……さん……』
『なんだ?』
『さっきオマエが俺を助けてくれたんだろ? みんなを助けるとかできないか?』
半泣き状態で縋る。
『助けてやらんでもない』
『マジか! 本当に?』
『ただし条件がある』
『条件?』
急に辺りが暗くなる。
何かが日光を遮った。
なんだ?
いつの間にか太陽と自分の間に巨大な物体が浮かんでいた。
なんなんだあれは?
巨大な真っ白い竜のようにも見える。
だが手足は人のようなモノが付いている。
まるで人が竜を纏ったようなカタチだ。
『なっ……なんだよあれ……』
『そうだな私の分身……エピゴノスとでも名付けようか』
今、名前決めたのかよ!
『先程まで私達がいた、螺旋階段の空間はエピゴノスの内部になる。 私とエピゴノスは同じ存在なんだ』
『内部って、この白い巨人も相当デカそうだけど、あの空間はコイツの内部だけじゃ到底足りないくらい広かったぞ』
『外からはそう見えるかもしれないが、エピゴノスの内部には空間的な制約は無い』
だめださっぱり分からない……
この小さなアトと、あの大きなエピゴノスとかいう白い巨人が同じ存在?
しかも螺旋階段の空間があのエピゴノスの内部?
『オマエにはこのエピゴノスを操り、世界中に散らばるデシメーターと戦ってもらう、それが条件だ』
『デシメーター?』
『そうだ、さっき見ただろう? そして殺されかけただろう?』
『あっ……あの大きなパラボラアンテナみたいなやつのことか……』
『そうだ』
『つまりオレがこのデカブツを操って、あのパラボラアンテナと戦えば、みんなを助けてくれるってことなのか?』
『そうだ、まあ全て完全に元通りとはいかないがな』
『……………』
今の自分が落ちているのが天なのか地なのか判らないが仰ぎ目蓋を閉じるーーーー
女の子が現れて、化け物を操って、化け物と戦えばみんなを助けてくれるというーーーー
馬鹿げた話だ、こんな話が現実とは到底思えないーーーー
本当のオレは病院で植物人間になって夢でも見ているのだろうか?
なら夢に怯える必要なんてないか……
深く息を吐くーー
ゆっくりと目蓋を開ける。
『どう操るんだ?』
オレはアトをじっと見据えた。
数秒はあっただろうか。
何故かオレを見つめるアトの表情は哀しげに見えた。
意思を感じ取ったのかアトが頷く。
『ではレクチャーだな』
辺りの景色がまたも一変した。