アト
『ウウッ……』
ここは……どこだ?
ハア……ハアァァ……息が出来ない苦しい……
痛い……全身が痛い……
ここはあの世なのか?
もしかして死んだら死んだ時の苦しみがずっと続くのか?
嫌だ……こんな苦しみがずっと続くなんて。
死ねば楽になるなんて嘘じゃないか……
アアァ……痛い……苦しい……けれども意識がハッキリしていやがる。
誰か……助けてくれ……
『助かりたいか?』
声が聞こえる……声なのか……
『アウウウゥウ』
必死に助けを求めたがうまく声にならない。
『そうか……ならば条件がある』
条件……なんだっていい……早く楽にしてくれ……
生きるにしろ死ぬにしろどっちだっていい……早く……
苦しい……早く……早く楽にしてくれ……
『ウゥッ……』
『やれやれ、この状態では会話もままならないか』
パチン!
指を鳴らすような音を聞いた瞬間、身体の痛みが一気に無くなった……
『えっ?』
さっきまでの痛みが嘘のように引いていく。
事態がうまく飲み込めない。
えーーっと……
『…………………』
ゆっくりと手のひらを目の前まで動かす。
動いている……よな?
手の平から視線を移し、辺りを確認。
一面真っ暗な世界ーーーー
遠くに赤い地平線の様なものが見える。
何処なんだここは? あの世か?
地面も冷たいコンクリートのような感触だ。
ゆっくりと上半身を起こす。
どこも痛く無い。
さらに立ち上がって手足を確認。
両手足もちゃんと付いている。
立眩みも無い。
むしろ体の調子は良いくらいに感じられる。
しかしその反面、学ランはボロボロだった。
立ち上がって再度辺りを見渡すが、何処までも暗い、そして赤い地平線。
途方に暮れるとはまさにこのことだ。
生きているにしてもどこだここは?
死んでいるにしてもなんだここは?
方向感覚も全く無い。
うーーん……どうしたもんか……
とりあえずあの赤い地平線の方へ歩いてみるか……
そう歩き出したときだった。
『オーーイ、そっちじゃないぞ』
何処からか声が聞こえたような……
『こっちだ、馬鹿者』
後ろから声が聞こえる……
怖い!
うっ、うっ、うっ、後ろ!
ただ振り向くという動作が、こんなにも恐ろしいなんて。
それこそ体から「ギギギ」と音が出そうなほど力を入れて振り向く。
そこには不思議な光景が広がっていた。
自分の真後ろ、少し離れた場所に螺旋階段のようなものが見える。
真っ白い螺旋階段が黒い地面から真っ直ぐに天井に伸びている。
かなりの高さだ……
螺旋階段の伸びた先には、白い何かが渦を巻いている。
階段の先端はその白い渦の中に飲み込まれていた。
白い渦の中はここからではよく分からない。
あれ?
螺旋階段の根元に人が座っている。
歳は10歳くらいだろうか?
真っ黒い服を着た少女だ。
両手でマグカップのような物を持ちながら、何かを飲んでいるように見える。
そして少女はこちらをじっと見ている。
あっ、もしかしてあの少女、死神ってやつか?
あの螺旋階段を昇ってあの世に行くのか?
『私は死神じゃないぞ』
先に答えられてしまった。
心でも読めるのか?
ゆっくり唾を飲み込み、慎重に噛まないように注意を払いつつ声を出す。
『ここは何処で、あなたは何者ですか?』
ちゃんと声が出て内心かなりホッとした。
喋れるんだな、今の自分。
こちらの問い掛けに対して少女は、うーーんと唇に人差し指をあてながら考え込んだ。
『ここは何処という質問は簡単に答えられるのだが、自分が何者なのかとは、ずいぶん難しい質問だ……私は何者なんだろうな……』
少女は考え込んでいる。
一応こちらの言葉はちゃんと通じているみたいだ。
『とりあえず名乗ろう……私の名前はアト、そしてここは私の内部だ』
しれっと表情ひとつ変えずにアトと名乗った少女はそう答えた。
だめだ……意味が分からん……
少女の名前はアト。
そしてここは少女の内部らしい。
内部って……女性の身体には興味があるけど……
外側を通り越していきなり内側に来ちゃったのか?
『内部ってどういうことですか?』
ニッコリ
バカみたいな質問だが一応してみる。
またもアトはうーーんと考え込んで答えた。
『百聞は一見に如かずと行くか』
その瞬間、辺りの景色が一変した。