ルシファーの目
『これは……』
『うむぅ……』
ミコトとスサノオが思わず唸る。
草薙剣によって生まれた時空を裂く一撃が富士山の内部を晒す。
そこに現れたのは巨大な眼球だった。
そう、富士山に巨大な一つ目が誕生したのだ。
その一つ目は目蓋のようなものを纏い、ぎょろぎょろと激しく動いている。
そして空中のスサノオを確認するとツイと目を細めたのであった。
『あれがオロチの本体か……』
『富士山がピラミッド、まるで札を透かしたルシファーの目ですわね』
一つ目のまつげにあたる部分がウネウネと動き出し、触手の様に空中のスサノオに襲い掛かった。
四方八方から襲い掛かる大量のまつ毛触手をスサノオが切り払う。
『異様に長いまつ毛は好きじゃありませんわ!』
何十本目かのまつ毛触手を切り払いスサノオが一つ目に迫る。
『ミコト殿! 天叢雲剣を一つ目に突き立てよ!』
『しかしスサノオ様! あれは如何にもですわ!』
触手は無尽に迫ってくるが、パラボラアンテナオロチの軍団に比べれば少々攻撃として物足りない。
ミコトが用心するべきだと声を上げる。
『かまわん! 他に攻撃するべき対象も見当たらんし、どんな生物も瞳は弱点だ!』
『そっ……それでは!』
半ばスサノオの勢いに圧されるかたちでミコトが残った力を天叢雲剣に集める。
スサノオの全身を包んだ青い光が天叢雲剣へと収束する。
周りのまつげ触手を吹き飛ばしながら、天叢雲剣を小脇に抱える形でスサノオは一つ目に突進した。
『『ハァアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』』
ミコトとスサノオの雄叫びが重なる。
深々と――――――
天叢雲剣は一つ目に突き刺さった。
同時に天叢雲剣から放たれた青い稲妻が一つ目を震わす。
だが。
一つ目はゆっくりと目蓋を閉じるとニヤリと目尻を緩めた。
『どういう仕組みかは分かりませんが、やはり罠でしたわね……』
『くそ! 肉ならぬ眼を絶たせて命を絶つか!』
ミコトは一人悔しがるスサノオの声を聞きながら、もうこの御先祖様の意見は今後無視しようと心に誓うのであった。
まつ毛の触手がスサノオを絡めとる。
閉じていた一つ目の目蓋がゆっくりと開いていく。
目蓋の隙間からは大量の光が溢れ出していた―――
カッ!!!
そして一気に瞳が開き、光がスサノオとミコトを飲み込んだ。