螺旋階段の根元
『おい! アト!』
抱きかかえたアトの軽さに驚くが、さらに驚いたのが腕のキズだった。
オレと同じように貫かれた右腕はキズ口からヒビが入っていた。
腕にヒビなんておかしな表現だがそれ以外に表現のしようが無い。
卵の殻にヒビが入るようにアトの腕にもキズ口からヒビが入っているのである。
さらにそのヒビからは緑色の光が漏れ出していた。
今更気が付いたがオレの腕のキズは消えている。
もしかしてアトが治してくれたのか?
『アト……』
アトの息遣いは荒い。
額には大量の汗が噴出している。
こんなアトを見るのは初めてだ。
『アト、ヤバそうだけど大丈夫か?』
『一応な。思いのほか奴の攻撃によるダメージが大きい』
『すまない、沢山攻撃もらっちまって』
『とりあえず螺旋階段まで私を運んでくれないか?』
『螺旋階段に座らせればいいのか?』
『ああ、あそこが一番回復する』
『わかった』
アトを抱きかかえて螺旋階段まで運ぶ。
しかし、お姫様抱っこでアトを運んでいるんだが本当にアトの軽さに驚く。
人間としてはありえない軽さだ、どうなんだろう?
下手したら10キロくらいしかないんじゃなかろうか?
体の大きさに比べて驚異的な軽さだ。
何度も思うがマジで人間じゃねえな……
そのままアトをちょこんと螺旋階段の根元に下ろす。
初めて会ったときと同じように螺旋階段に腰をかける格好だ。
アトはそのまま螺旋階段の支柱に体を預ける。
『これでいいのか? アト』
『ハア、ハア、ああ、しばらくこのままにしておいてくれ』
アトの息は荒い、かなり苦しそうだ。
なんかオデッセウスとかいうワケの分からん奴に絡まれたが、本来の敵は富士山に現れるオロチの本体だ。
アトをこのままにしておくのも気掛かりだがミコトさんの援護に向かわなければならない。
『アト、オレはこのままエピゴノスでミコトさんの援護に向かうけどそれでいいか?』
『…………』
アトは無言で小さく頷く。
オレが鳥籠に戻るとモニターに火が入った。
まだエピゴノスは動けそうだ。
そのままエピゴノスを浮かせ富士山頂を目指す。
オデッセウスの攻撃によるダメージのせいか来たときのようなスピードが出ない。
一刻も早くミコトさんの援護に向かわなければならないのに……
アトが元気なら空間を割ってワープ出来るんだけどなぁ。
今のアトにそれを求めるのは酷だ。
オレはヨレヨレとエピゴノスを飛ばしミコトさんの後を追うことにした。