ミコトその2
鎧武者の内部――
一面緑色に発光している鳥籠状の操縦室。
ミコトは片膝をつき、刀を立てた状態で俯いている。
そしてゆっくりと瞳を開けながら語り掛けた。
『お久しぶりですスサノオ様』
鳥籠全体が少し輝きを増して答えた。
『久しぶりだなミコト殿』
ミコトは立ち上がる。
『あそこに見えるは正しくオロチ』
『それでは行こうか! ミコト殿!』
『ハイ!』
ミコトは鞘から刀を引き抜いた。
その瞬間、スサノオと呼ばれた巨大な鎧武者の片手に一振りの刀が現れる。
『ハアッ!!!』
ミコトが叫ぶとスサノオは小牧山から飛び降り、一気にオロチと呼ばれた怪物に斬りつけた。
――――――――――!!!!
刃はオロチに当ったのだが、深くは切り込めていない。
『!!!!!!』
ミコトは力を込めるが、その隙にオロチの身体から伸びた触手に絡め取られる。
『えっ! ちょっと!』
そのままスサノオはオロチに放り投げられ、スサノオは一帯を瓦礫にしながら倒れこんだ。
内部のミコトもその衝撃を受ける。
『イタタタ……流石に本物は硬いわね』
『ミコト殿!』
ミコトが慌ててモニターを見ると、オロチのパラボラアンテナ部分を高速で光が回転していた。
『干渉作用の変換をしているようね……』
『ミコト殿! 跳ねろ!』
スサノオが跳ねた瞬間、オロチから放たれた火線が襲う。
轟音一閃。
火線は小牧市と隣接する春日井市辺りまで一気に突き抜けた。
『!!!!!!!!――――――――――』
瓦礫の海に巻き込まれながら、間一髪避けたスサノオも吹き飛ばされ落下する。
火線の去った後、小牧市から春日井市にかけて大地は線状に削れていた。
『たいしたものね……』
ミコトは一瞬、今までの僅かな戦いでどれくらいの人間が死んだり怪我をしたかを考えたが悲しんでいる暇は無かった。
『ミコト殿! 今こそ我が神器の力見せる時!』
ミコトと巨大な鎧武者スサノオが手にする刀が緑色に発光する。
『オロチがもう一度火線を放った瞬間、縦一文字に草薙の力で薙ぎ払い、そしてその隙に天叢雲の力で止めを刺す!』
『わかりました!』
ミコトは肩に刀を担ぐ。
同時に巨大な鎧武者スサノオも同じ姿勢となる。
オロチの周囲に先程と同じようにエネルギーが収束する。
もう一つの世界から集められたエネルギーがこの世界に干渉出来るエネルギーへと変換される。
オロチ自身が呑み込まれそうな程の光。
膨大なエネルギーがスサノオに向けて放たれた――――――
『今だ! ミコト殿!』
ミコトは渾身の力で刃を振り下ろす。
『ハアァァァァァッ!!!』
スサノオがオロチの火線を薙いだ瞬間、甲高い音と共にスサノオの前方の空間が割れる。
モーセが海を割るかの如く空間がオロチに向かって割れていく。
火線は左右真っ二つに割れていた。
『ハアァァ!!!』
歪み割れた空間をスサノオがオロチに向かって駆け行く。
火線を放っている間、オロチは発射口が剥き出しの状態になっていた。
剥き出しの発射口にスサノオが刀を突き刺す。
ドズウウウウッ――――――
硬い外装と違い刀が深く突き刺さる。
『スサノオ様!』
『今だ! ミコト殿! 天叢雲を突きたてよ!』
『ハイ!』
スサノオが右手を伸ばすとその手にもう一振り刀が現れる。
だがその瞬間、右手の刀は異様に姿を変化させた。
『なにっ!』
思わずスサノオが叫ぶ。
『スッ……スサノオ様!』
みるみる姿を変えた天叢雲剣は、まるで触手のようにギリギリとスサノオを絡め取った。
『これは……一体』
ミコトが苦しそうに呻く。
『ミッ……ミコト殿……この天叢雲剣は偽物だ……』
空間の歪みが徐々に戻る。
オロチの周囲に再びエネルギーが収束し始めた。
『!?』
触手に絡めとられスサノオにはなす術がない。
オロチから放たれた火線がスサノオを覆う。
『――――――――――――!!!!!』
声にならないミコトの叫びと共にスサノオは吹き飛ばされる。
激しく身体を打ち付け、ミコトは意識を失った。