平家一門
タラップを降りるとこちらも船着場のような場所だった。
しかしこんな都合いい感じの船着場がよくあるもんだな。
なんて思っているとミコトさんと徳重さんの会話が聞こえてくる。
『2日で整備したにしては上出来ですわ』
『はっ、建設部に多少無理をさせました』
『よろしく言っておいて下さい』
『はっ、かしこまりました』
うーーん、やっぱりか。
『スサノオ様』
ミコトさんが話し掛けるとスサノオさんが実体化した。
『天叢雲剣の気配はどの辺りで感じるのですか?』
スサノオさんは目を閉じウーンと唸る。
『もう少し先だな』
『徳重、車を』
船着場からは道が整備されていた。
飛来家のあの車が停車している。
どうやら事前に運んできたようだ。
みんなで車に乗り込み、しばらく走ると大きな橋が見えてきた。
『あの辺りから気配を感じる』
スサノオさんは車中からジッと橋を見つめる。
『あれが関門橋か……』
壇ノ浦に架かる関門橋はオレの想像よりもずっと大きかった。
近くには公園が綺麗に整備されている。
平日の昼間だけあって観光客の姿もまばらだ。
公園からは徒歩で海辺へ降りることが出来るようになっている。
『こっちだ』
スサノオさんは海辺へと階段を降りる。
一同それに続く。
海辺に立ちスサノオさんが呟いた。
『ここだな』
スサノオさんが呟いた途端、辺りの雲行きが怪しくなる。
もの凄い速さで雲が空を覆い、さっきまでの快晴が嘘のように辺りが真っ暗になった。
今にも降り出しそうな感じだ。
ゴロゴロと雷が鳴り出した。
暗い海にポツポツと人魂のようなものが灯る。
ん? なんだ?
灯りは海に向かって一直線に列を成している。
まるで道のように2本、等間隔に海に灯りが灯っている。
灯りに照らされて薄っすらと鎧武者のようなものが見える。
『ヒッ! えええええっ!』
2列に鎧武者が列を成し、スサノオさんを誘っているように見える。
『ミコトさん! コレなんなんですか?』
思わずミコトさんに声を掛ける。
『恐らくは平家一門と言ったところでしょうか……』
『ゆっ、幽霊みたいなもんですか?』
『そんなところですわ』
そんなところて……
『スサノオ様アレを……』
ミコトさんが見つめる向こう、鎧武者の先にさらに人影が見える。
子供か?
着物を着た子供が見える。
列はその子供へとスサノオさんを誘うように続いていた。
『安徳天皇……』
『安徳天皇?』
あれが以前説明のときに聞いた安徳天皇なのか?
『壇ノ浦決戦の際、平家方と一緒に弱冠六歳であった安徳天皇が、ここで入水し崩御なされました』
『入水? 崩御って? 六歳で亡くなったってこと?』
『はい』
『そんな……』
六歳なんて子供が一番かわいい時期だし遊びたい盛りだろうに……
いくら政治の成り行きとはいえ酷すぎるな。
『ミコト殿行ってくる』
スサノオさんはそう告げ、スタスタと海上を歩き出した。
もともと霊体だからできる離れ業だ。
幽鬼の列の中、スサノオさんが安徳天皇の元に歩いていく。
スサノオさんが安徳天皇の元に着くと安徳天皇は両手を前に出した。
両手の中に一振りの刀が現れる、恐らくあれが天叢雲剣だろう。
スサノオさんは険しい表情のまま天叢雲剣に手を伸ばす。