三種の神器
コンコンと一応ノックらしきことをしてみる。
『失礼します』
どうぞと扉の向こうから声が聞こえたので扉を開ける。
ミコトさんがいつも使っている会議室にはミコトさん、スサノオさん、徳重さんがいた。
『おはようございます裕也様、アト様』
ミコトさんがニッコリ微笑む。
『あっ、おはようございます』
朝からあの笑顔はキツ過ぎる、マジでヤバイ蕩けそうになる。
『それでは全員揃いましたので、スサノオ様からご説明いただきたいと思います』
『うむ』
スサノオさんはそう言うと険しい表情になった。
『先日の小牧山の戦いにおいて、我々が所持している天叢雲剣が偽物であることが発覚した』
うんうん、そのせいで満足に戦えなかったんだよね。
『戦いののち、私は長門国の壇ノ浦から天叢雲剣の気配を感じるようになった。恐らく壇ノ浦に本物の天叢雲剣が存在すると思われる』
本物の天叢雲剣?
『あそこには本当なら、偽物の天叢雲剣が沈んでいるはずなのですが……』
ミコトさんが眉を曲げて考え込んでいる。
偽物の天叢雲剣? なにがなんだか解らない。
『あのぉ……質問いいですか?』
恐る恐る手を挙げてみた。
『ハイ! どーぞ裕也君!』
先生みたいにミコトさんが返事をする。
『えーーとぉ……小牧山でスサノオさんが持っていたのが偽物の天叢雲剣なんですよね? それで本物が壇ノ浦にあるかもしれないって話ですよね? 今のミコトさんの話だと、壇ノ浦にそ偽物の天叢雲剣が沈んでいるような口ぶりなんですけど……本物とか偽物が以前からあったんですか?』
『失礼しました。裕也様には天叢雲剣に関する一連の説明をしていませんでしたね』
前置きして天叢雲剣について説明を始めた。
『本来、天叢雲剣は三種の神器、八咫鏡・八尺瓊勾玉・天叢雲剣の一つとして熱田神宮に奉斎されているのはご存知かと思います』
三種の神器はなんか聞いたことがあるような……
日本のお宝的存在で確か、鏡と石と剣だったような気がする。
熱田神宮は名古屋にあったような……
『世間一般では天叢雲剣は別名、草薙剣とも呼ばれているのですが、実は天叢雲剣と草薙剣はまったく別々の剣なのです』
本名とアダ名だと思っていたら実は全然違う人物が二人存在したようなもんかな?
『私達は今まで、本物を飛来家で管理し、熱田神宮には霊的に似せたレプリカを奉斎しているつもりでいました』
けっこう大事のような……
『しかし先日の戦いで我々の管理してきた天叢雲剣も偽物であることが判明しました』
『どうやって判ったんですか?』
『裕也様には具体的に説明していませんでしたが、オロチとの戦いの最中に突然変形をして我々に襲い掛かってきたのです』
『あーそれであのピンチになったわけですね?』
ミコトさんはウウッ! とタジロギながら。
『いっ……言い訳ではありませんが私自身、本物はあの日生まれて初めて拝見しましたので……そのなんというか……あの……申し訳ございません』
『あわわわっ、別にミコトさんを責めている訳じゃ無いですよ!』
なんだか悪いことを言ってしまった。
隣でスサノオさんも落ち込んでいる。
『一番の責任は私にある。大地の神から授かった自身の武器が偽物にすり替わっていることに気が付かないとは……なんたる不覚!』
あわわわわ! スサノオさんまで。
『しかし、あれは本当に妙だった』
スサノオさんは神妙な顔つきで考えはじめた。
『小牧山の戦いまで本物と寸分変わらぬ剣に見えた。霊的な部分までまるで大地の神自身が創ったのではないかと疑うほど。もしかすると敵は我が大地の神と同質の力を持った存在なのかもしれぬ』
『同質ってことは同じような神様だってことですか?』
『私自身、命を助けてもらっている身でありながら、大地の神についても敵であるオロチについても、どんな存在なのか何も分からないのだ』
えーーオホンとミコトさんは調子を整える
『つまりは現在、熱田神宮の天叢雲剣も飛来家の天叢雲剣も本物では無いということになります』
『なんで壇ノ浦に本物があるんですか?』
『実は過去に一度だけ事件がありまして……』
ミコトさんはジト目でスサノオさんをみつめている。
スサノオさんはウウッとなんだかミコトさんから視線を逸らしている。
『やっ……やはりミコト殿もあのときにすり替えられたと思うか?』
『スサノオ様には悪いですけど、あの事件意外にはどう考えてもありえませんわ』
スサノオさんはなんだかえらい落ち込んでいる。
『あの事件って一体……』
こちらはさっぱり分からない。
ミコトさんがヤレヤレといった感じで説明を始めた。