悪い癖
帰りは雨が降っていたので車での移動になった。
車中の空気は重い。
昼の一件から後、ミコトさんもソーニャさんもなんだか暗かった。
こういう時に自分はどうしたらいいのか、いつも分からなくなる。
明るい性格の人間なら気にするなと笑い飛ばすだろう。
女性の扱いに長けた男性なら女性に対して、君の気持ちはわかるよなどと、機嫌を損ねた原因を非難し同調するのだろう。
けど自分にはどちらも出来無いし、どちらも違う気がした。
悪い癖だと思いながら口を開く。
『結構降ってますね』
なんだか本題から逃げるようで少し後ろめたい気持ちになりながら、間を打ち消そうとする。
ミコトさんは窓の外を眺めたままだ。
うおっ……なんか怒ってるのか?
それとも落ち込んでいるのか?
あれ? いや違う。
なにやらブツブツ独り言を言っているようだ。
『……もしかしてバチカンでなにかあったのかしら……』
『ミコトさんどうかしたんですか?』
『! え! あ! これは失礼しました』
『考え事ですか?』
『ええ、昼間の件なんですけど……』
ミコトさんの方からその話題をするとは!
『妙なんです』
『妙?』
ミコトさんは困ったような表情で続けた。
『フィリポもソーニャも普段はあんな感じではないんです』
『はぁ』
『いつもは冗談を言い合うほど仲も良いのですが、そのなんというか以前とは状況が変わったような感じを二人から受けました』
『状況が変わる?』
『二人ともなにか私に秘密を隠しているような……』
『もしかして昼からずっとその事を考えていたんですか?』
オレがそう言うとミコトさんは急に慌てだした。
『あっ、ハイ、すみません私、気になることがあるとずっと考え込んでしまう癖がありまして……』
『よかった、昼の件で落ち込んでるんじゃないかと思ってましたよ』
『本当にすみません。飛来家の当主としてはあまり良く無い癖で……』
ミコトさんは、はーーっと溜息を吐いた。
『けれど落ち込んでいるなんてとんでもないです。私は今こうしているだけで、十分幸せなんですよ』
ミコトさんはそうニッコリ微笑んだ。
その笑顔をみて急にオレが恥ずかしくなってきた。
ミコトさんはオレが想像するようなステロタイプの女性とは少し違うようだ。
落ち込んでいるから励ますとか、そんな小手先の気遣いなどは無用のまさに当主なのだろう。