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アパスル

挿絵(By みてみん)


『食事中にすまないミコト』


 そう話し掛けてきた生徒は、どうなんだろう? 金髪や顔の造りから日本人では無いのは分かるのだが、正直ナニ人かは分からなかった。


『いいえ、かまいませんよフィリポ』

『君は忙しいからねぇ……』

『ご用件は?』

『いやぁ、実は先日許可を頂いた海溝調査の件なんだけど』

『予算が足りませんか?』

『予算は足りてるんだけど人手がねぇ……チャレンジャー海淵の経験者は少なくて』

『それは困りましたね……』

『それでなんだけど、以前のように君に手伝ってもらえないかと……ってところで今日のランチは変わっているね』

『今日は私が作りました』

『そうか、君が作ったのかってナニィ!!!』


 そう言うとフィリポさんは脇に抱えていたノートパソコンを床に落とした。


『今! この卓上にある料理はミコトが作ったものなのか!!!』

『そうですわ』

『ぜひ僕にも一口味合わせてくれないだろうか!!!』

『そっ、そうですわね……』


 ミコトさんと俺の小皿にはもうなにも残っていなかった。

 そんなフィリポさんを尻目にソーニャさんのスピードは増していく。

 お重の中身はあと僅かだ。


『ソ! ソフィア・ロマーノヴナ・マルメラードワ! ちょ! 止まれ!』


 フィリポさんが必死に訴える、だがソーニャさんは止まらない!


『ソーニャ、ストーイ!』


 ミコトさんがなにやら話しかけると最後のお稲荷さんをフォークに刺したままソーニャさんはピタリと止まった。


『? なに? ミコト』

『フィリポが少し話があると』

『フィリポ?』


 ソーニャさんはようやくフィリポさんの存在に気が付いたようだ。


『おーーフィリッポーーこんにちはにゃん』


 フィリポさんは縋るように慎重に話掛ける。


『ソフィア・ロマーノヴナ・マルメラードワ、そのミコトの手料理を一口分けてくれないか?』


 ソーニャさんはなんだか遠い目でお稲荷さんを2秒ほど見つめ。


 ぱく


『あああああああああああああっ!!!!』


 最後のお稲荷さんを喉に通した。


『ソフィア・ロマーノヴナ・マルメラードワ!!! 君には同じアパスルとしてのよしみとか無いのか!!!』

『フッ! もぐもぐ! これは私のお稲荷さんにゃ!』

『おわあああああああああっ!!!』


 フィリポさんは甲子園で負けた高校球児のように崩れ落ちる。


『気持ちは解ります、元気出してください』


 俺は流石に気の毒に感じてフィリポさんに声を掛ける。


『ありがとう、ところで君は誰だい?』

『名前は中島裕也っていいます、先日転校してきたばかりです』

『なるほど、ところでミコトとはどんな関係なんだい?』

『えーーそれはーーなんというか……』


 俺が言い澱んでいるとミコトさんが割って入ってきた。


『裕也様は飛来家の最重要客人です』

『最重要客人? また突飛な表現だね』

『今は私が身の回りのお世話をしています』

『身の回りの世話だって? 本宅で? 忙しい君が付きっ切りでかい?』

『そうです』

『まるで夫婦のように? 風呂や寝床も?』


 フィリポさんにそう言われるとミコトさんは頬を赤らめた。


『流石にそこまではしていませんが、出来る限りのお世話をさせて頂いております』


 そこまで聞くとフィリポさんはフームと考え込んだ。


『僕やソフィアよりも重要な客人ねぇ……』


 フィリポさんは落としたノートパソコンを拾うとミコトさんにグッと詰め寄る。


『僕の気持ちは解っているんだろうミコト? 何度も伝えたのにあんまりじゃないか』

『それは……』


 ミコトさんの表情が曇る。


『彼もどうやら普通では無いようだが、君に相応しいのは僕のような血筋の特別な人間だけだよ』

『フィリポ、あなたにはあなたの役目があるはずです』

『それは誰かに代わってもらうさ』


 言うと同時にフィリポさんはミコトさんの腕を掴んだ。


『フィリポ!』

『それに……君にはあまり時間が無いだろう?』


 その言葉を聞いた瞬間、ミコトさんの表情は一気に青ざめた。

 コイツ! とりあえず腕だけでも放させないと!

 俺が二人の間に入ろうとしたときだった。


挿絵(By みてみん)


 バチィイイイイン!!!


『!!!』


 フィリポさんにソーニャさんが平手を食らわせていた。

 そのままソーニャさんはいつもと違った冷酷な眼差しでフィリポさんに告げる。


『フィリポ! それ以上ミコトを悲しませる発言をするなら同じアパスルと言えども容赦はしない!』


 ソーニャさんいつもの『にゃあ』が抜けてる……

 平手を食らってフィリポさんはミコトさんの腕を放していた。

 どれくらいの時間だったろう、何十秒か経ったのちフィリポさんはようやく口を動かした。


『すまない、彼のような人間がいきなり現れたので気が動転してしまった許してくれ』


 依然としてソーニャさんは厳しい眼差しをフィリポさんに向けている。


『ソ……ソーニャ、やり過ぎです! フィリポ大丈夫ですか?』

『大丈夫だよミコト、それに今の話で裕也君のことがなんとなく解ったよ』


 俺のことが解ったって?


『君がこんなに手厚く持て成すなんて、恐らくは先日の事件絡みの人間だ』


 ううっ……大正解です……


『裕也君のことはあちらに報告させてもらうよ』

『フィリポ、彼女には直接私から話をします』

『いいや、一応はその役目もするために僕はここに来たのだからね、それに……』


 そう言うとフィリポさんはソーニャさんを見つめフッと笑い。


『僕はこれでも真面目なアパスルだからね』


 そう言い残しその場を去っていった。

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