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話題が無い

挿絵(By みてみん)


 転校2日目。


 オレは朝食を済ませ、玄関でミコトさんを待っていた。

 飛来学園は屋敷から徒歩で10分くらいの場所にあるというか、もはや飛来家の敷地内にあると言っても過言ではない。

 登校はミコトさんと一緒に並木道を歩いていく。

 これが結構楽しくて、朝の澄んだ空気を吸いながらミコトさんと登校するのは最高に気分が良かった。

 しかし今日はなんだか様子がおかしい。

 昨日は時間通りにミコトさんが来たのだが、今日は待ち合わせの時間を過ぎても一向にミコトさんが来ないのだ。

 ミコトさんは時間にはかなりシビアなほうだ。

 体調でも崩したのかな?

 そうこう考えているとミコトさんが息を切らせてやって来た。


『ハァ、ハァ、すみません遅れました』


 なんだかミコトさんのこんな姿を見るのが初めてだったので少し驚いた。


『いえいえ、全然まだ学校には間に合う時間なんで気にしないで下さい』

『それでは参りましょう』


 ミコトさんも息を切らしていることだし、まだ時間にも余裕があるのでゆっくり歩いていくとするか。

 普段よりもペースを落としながら歩いていると、少しいつもとミコトさんが違うことに気が付いた。

 昨日のミコトさんは登下校時、草薙剣しか持っていなかった。

 と言うかどこに行くのにも大概そうだ。

 しかし今日はそれとは別になにか布袋のようなものを持っている。

 怪しいなあ、あの袋。


『あのぉ……ミコトさんその袋なんですか?』


 そう言うとミコトさんはギクゥと擬音でも出しそうな感じで焦りだした。


『あっ、そのっ、これは……なんでもありませんわ』


 益々怪しい、だがこれ以上の詮索はやめたほうがよさそうだ。

 いつも丁寧に答えてくれるミコトさんが答えを濁すのだから、オレにはよほど知られたくないか関係無いものなのだろう。


 ううっ、それにしても会話が続かない……

 未だにミコトさんと二人きりだと緊張してしまう。

 いつもはなんだかんだで徳重さんやスサノオさんやアトがいるので、意外と二人きりの時間は無い。

 うううううっ困ったーー。

 ミコトさんに流行曲の話を振っても高確率で知らないだろうな……

 テレビもバラエティとか観て無いだろうし。

 小さい頃流行った遊びも庶民のオレとは違うだろうし。

 ああああああああああ困ったーー。

 ああああああううううう。

 なにか! なにか話題になるものはないか!

 辺りを見渡しても並木道しか無い、やはりミコトさんの持ち物が気になる。

 しかし、あの妙な袋については聞けないし。

 そうなるともう片方の草薙剣か……

 日本刀の真剣なんだよなアレ……

 アレ? そういえば……

 以前から疑問に思っていたことがあるので、この際ミコトさんに聞いてみよう。


『あのーー聞いてもいいですか?』

『どうぞ何なりと』

『スサノオさんの鎧姿ですけどアレおかしくないですか?』

『おかしい?』


 ミコトさんは怪訝そうな表情だ。


『あの鎧姿はどうみても戦国時代のデザインですよね?』

『はぁ……』

『スサノオさんがオロチと初めて戦ったのは2000年も前ですよね?』

『そうですわね』

『だったらあんな戦国時代の甲冑みたいなデザインじゃあなくて、教科書に出てくるような弥生時代の白装束みたいな格好か、もしくはもっと簡素な鎧になるんじゃないかなと思うんですよ』


 オレの素朴な疑問を聞いてミコトさんはクスリと微笑んだ。

 アレレ?

 なんか変なこと言ったかな?


『いや、失礼しました。裕也様がおもしろいことを考えていらっしゃるなとつい……』

『おもしろい?』

『はい。しかし当然の疑問だと思います』

『ですよね』

『裕也様はシェイクスピアをご存知ですか?』


 シェイスクピア? 突然関係無さそうな単語が出てきたぞ?


『ベニスの商人とかの作者ですよね?』


 シェイクスピアくらいは流石に知っている。と言っても舞台は2回しか観た事ないが。


『舞台を御覧になったことは?』

『2回程あります』

『それでは舞台を御覧になってなにか感じたことは御座いますか?』

『感じる?』

『はい。気が付いたことでもかまいません』


 感じると言われても……


『感動したとか商人が酷い奴だとか、冷静に考えたらやっぱり商人は悪くないじゃんとか、何処かで聞いたことあるようなセリフだなあとか……』

『最後の部分が答えですわ』


 最後の部分?

 何処かで聞いたことあるセリフというやつか?

 何処かで聞いたことあるセリフ……

 セリフ……


『何処かで聞いたことがあるセリフではなく、そのセリフはシェイクスピアが生み出したセリフなのです』


 ハッ!

 いろいろ話しているうちになんとなく気が付いた。


『もしかして、スサノオさんのほうが先ってことですか?』


 ミコトさんは満足したように。

『御名答』と答えた。


『つまりはスサノオさんが先にあの格好だったのであって、戦国時代の甲冑はスサノオさんを真似て作ったってことですね?』

『その通りです。スサノオ様とオロチの戦いを見た方々が民間伝承などで徐々にスサノオ様の姿を伝えていった結果、日本の甲冑はあのような姿に変わっていったのでしょう』


 オレは完全に勘違いをしていた。

 どうしても時代が先で、人はその時代に沿った生活をしているものという先入観があるせいか、スサノオさんの姿に違和感を感じてしまったのだ。

 そもそも柱神は時代なんかに左右される存在では無い訳だ……

 スサノオさんが日本の土台を造ったのかもしれないし、様々なオレたちの生活様式や風習もスサノオさんに由来するのだろう。


『草薙剣や天叢雲剣もなんで日本刀みたいなカタチしてるのかなぁと思っていたんですけど、やっぱり草薙剣が先で日本刀がそれを真似て作ったってことなんですか?』

『はい。その通りです』


 日本文化の源流がスサノオさんにあったとは。

 そんなやりとりをしているとあっと言う間に学校に着いてしまった。

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