ハンモック
『アレ?』
談話室の辺りを通り過ぎようとしたとき、どうみても見覚えのある姿を発見した。
『アトじゃないか』
よく見ればアトが談話室のハンモックに横たわっていた。
アトはいつもの無表情でハンモックにゆらゆら揺られている。
その横ではハムリン君がなにやらアトに話し掛けている。
『ねえ君、あまり見かけない子だね、何年生?』
『ここの生徒ではない』
『え? じゃあ何処から来たの』
『遥か彼方から来た』
『遠い国から来たんだね……お昼は食べた?』
『食べてはいない』
『よかったらお昼一緒に食べない?』
傍から聞いてると、どうやらハムリン君はアトを口説いているらしい。
まあ無理も無いか……
アトは見た目超絶美少女だからなぁ……
ミコトさんやソーニャさんも美しいのだがアトの容姿はそういった次元を超えた領域に達していると言っても過言ではない。
強いて言うなら、何度見ても目の前に存在するのが信じられないくらい美しいのだ。
流石に見て見ぬフリも出来ないので声を掛ける。
『おーーい、アトさーーん、こんな所でなにやってんのーー』
口に手を当てヤッホーーのポーズで声を掛けてみた。
アトはゆっくりと振り向く。
『この揺れる寝具はなかなか面白いな』
アトはなんだか上機嫌だ。
『ハンモック、アトは初めて使ったの?』
『ああ、ところでオマエの用事は済んだのか?』
『いや、まだ施設の説明が残ってる』
『ギャーーなにこの子! ヤバ過ぎるーー!!!』
『『オゥ?』』
ソーニャさんがハンモックに横たわるアト目掛けていきなりダイブする。
ハンモックのアトごとぐるりと一回転。
ドサリと音を立て転がり落ちたソーニャさんの腕の中にアトは居なかった。
『?……アレ?』
摩訶不思議な現象を受け入れられずに辺りを見渡すソーニャさん。
そんなソーニャさんを尻目にアトはヴォンと音を立てて俺の傍らに現れた。
『なんなんだコイツは』
アトは腰に手を当て憮然とした表情でソーニャさんを見つめている。
俺はアトに耳打ちする。
『こら! アト! あんまり非常識な動きはやめろ!』
『なにを言っとるんだオマエは、今のはあっちが非常識だろ』
『うぐっ! たっ……確かに! ってそういう意味じゃなくて人間離れした動きはヤメレと言ってるんだ』
などと俺たちが言い争いをしているとソーニャさんがパチパチと拍手をしだした。
『おーーっ!! 凄いニャーー!! 全然動きが見えなかったニャーー!! ジャパニーズ忍術みたいニャーー』
良かった、どうやら手品の類だと思ってくれてるらしい。
しかしその横でハムリン君が俯きながらプルプル震えている。
ハムリン君を覗き込むとボソリ。
『またか』
などと呟いた。
またか?
『またオマエかーー!!! ナカジマユウヤ!!!』
襟首を掴まれグイグイと締め上げられる。
うげっ! 苦しい! とても子供の腕力とは思えん!
『この子もオマエの知り合いか!!! しかもこの子はどう見ても僕世代の子供だろう!!!』
うごごごっ……やばい……落ちる……
パチン!
気が付くと俺はアトに襟首を掴まれる状態に移動していた。
『それくらいにしておいてくれないか? コイツはそこまで頑丈じゃないんだ』
それを見たハムリン君は自分の手先とアトに襟首掴まれている俺を何度も見返している。
『? ? ? ?』
訳が分からないといったところだろう。
『君たちは一体何者なんだ? 先日の事件と関係があるのか?』
ハムリン君はなかなか鋭いことを言い出した。
『それは……』
ミコトさんが説明を始めるのと同時にソーニャさんがハムリン君を羽交い絞めにする。
『もーーう! ハムリンはそんな細かいこと気にしなくていいにゃあ!!!』
『うわぁ! チョット! ソーニャさんやめてくださいよ!』
『いいにゃあ! いいにゃあ! 気にするニャ!』
『ちょっと! 恥ずかしいですよ! あっ!』
かなりいい感じにハムリン君の顔はソーニャさんの胸に埋められている。
ハムリン君はしばらくもがいてソーニャさんから逃れた。
『ゼェ! ハァ! ゼェ! ハァ! とっ、とりあえずナカジマユウヤ! オマエは許さないからな! 覚悟しとけ!』
そう言い残すとハムリン君は初めて会った時と同じように走っていった。
そしてハムリン君をミコトさんがコラーーなどと言いながら追い駆ける。
ハムリン君、足速ぇ……
ミコトさん足もっと速えーー!
ハムリン君……お互い生きていたらまた会おう!
その後は急遽ソーニャさんが案内役になり運動施設の案内をしてもらった、行く先々でアトは注目の的となり、ソーニャさんは運動中の生徒から声を掛けられたがオレやハムリン君にしたように飛びつくことは無かった。
一応、見境無しにやる行為では無いらしい。
運動施設の説明が終わった頃にミコトさんは戻ってきた。
ミコトさんは『然るべき処置をしておきました』そう淡々と語られた。




