暗黒物質
部屋の中には机が並び、それぞれの机上にはパソコンが何台か置いてある。
机の横には金属で出来た自動販売機サイズの箱が2つ並んでいる。
『なんだかスッキリしてますね』
素直に感想を伝える。
『そうですね、ソーニャには研究に必要無いモノを極力持ち込まないように徹底していますし、この研究室自体には小型のサーバくらいしかありません』
ソーニャさんが横でぶーたれてる。
『サーバ?』
『そこにある大きな箱です。色々な計算をしたりデータを出し入れする少し性能の良いパソコンのようなものですわ』
おおっ、これがサーバというやつか……
ネットやニュースではよく聞くが実際に見たのは初めてだったりする。
『このサーバでいろんな研究をしてるんですか?』
『実際は別の機器を使って演算させてます。学園の地下5階から10階までがその部分にあたります』
えーーと、またまた聞き間違いじゃないよな……
『今、学園の地下5階から10階って言いました?』
『はい、そう申し上げました』
『もしかして物凄いコンピュータなんですか?』
『処理速度は1ヨタフロップスくらい軽く出せますが……』
1ヨタって言われてもピンとこないなぁ。
『1ヨタってどれくらい凄いのかイマイチ解らないです……』
『そうですねぇ……1秒間に10の24乗回数、浮動少数点数演算ができます』
『ますますピンときません……』
『よく言われるスーパーコンピュータだと思っていただければ』
説明を聞いても1ヨタって響きはなんだか弱そうだが実際は凄いんだぞ! くらいにしかイメージできない。
『1ヨタフロップスの処理速度があるから名前はヨタちゃんて言うんだよ』
なんとか回復したソーニャさんがスパコンの名前を説明に付け足した。
『ところでそのヨタちゃんを使ってミコトさん達はどんな研究をしているんですか?』
『私達は主に暗黒物質と暗黒エネルギーの研究をしています』
『暗黒物質?』
『宇宙全体の物質とエネルギーのうち96%ほどが正体不明の物質とエネルギーで占められています。その正体不明の物質を暗黒物質、エネルギーのほうを暗黒エネルギーといいます』
『つまりミコトさん達はその正体不明の物質やエネルギーが一体何かを調べているってことなんですか?』
『はい、その通りです』
ふへーーなんだか凄いなぁ、しかし96%ってほとんど暗黒物質と暗黒エネルギーじゃんってあれ? 確か以前に暗黒物質って何処かで聞いたような……
あれは確か……うーん何処だっけ?
最近、何処かで聞いたような……
うーーん……
『裕也様?』
めずらしく腕を組んで考え込む俺を心配そうにミコトさんが覗き込む。
あれは確か……
そうだ! エピゴノスに初めて乗ったときだ!
アトがアンテナに向かって、なんとか粒子がどうとかこうとか言ってたときに、確か暗黒物質がどうとか言ってたはずだ!
左の掌に右手をポンと打ちつけるようなポーズのまま口を開き、アトとのやり取りを説明しようとしたときだった。
なんだ? これは?
グニャリと景色が歪む。
あれれれ? ミコトさん? ソーニャさん?
まるでラテアートのように俺の意識が視界が俺自身がグニャーーっと歪む。
恐らくミコトさんやソーニャさん達は莫大な予算と膨大な時間をかけて、この研究を続けてきたのだろう、ここでアトから暗黒物質の重要な情報を聞き出せるのならそれはここの研究所、ひいては人類にとって計り知れない恩恵にあたる。
しかしなぜだろう?
ここでその件について話してはいけない気がする。
グニャリと意識が歪んだ瞬間、説明しようと思っていた意欲もグニャリと歪んでしまった。
話さなくてもいいんじゃないか?
むしろ、話してはいけない気がする……
俺は急きょ誤魔化すことにした。
そうだな……確かあのとき俺は……