ハムリン
金髪で青い瞳、どう見ても日本人じゃ無い風体の子供だ。
年の頃は10歳くらいだろうか? あんまり外人の年齢がオレには判らない。
少年は飛び出すといきなりミコトさんに抱きついた。
『ハムリン、研究は進みましたか?』
『研究? それよりミコトが居なくて寂しかったよ』
むちゃくちゃ流暢な日本語である。
『駄目よ、研究さぼっちゃ』
『ミコト、こいつ誰?』
いきなりオレを指差す。
『今日から転校なさった中島裕也様です。ハムリン、こちらの裕也様に失礼な態度は許しませんよ』
『ミコトさん……この子は一体……』
『失礼いたしました。この生徒はジェームス・ハムリン、初等部の生徒です』
ハムリン君はオレを睨みつけている。
『主に重粒子の研究をしています』
『重粒子ですか……』
正直、重粒子がなんだかよく解らないのだが、ハムリン君はえらく踏ん反り返っている。
『だから! ミコト! コイツはなんのエキスパートなんだよ!』
『ハムリン、さっきから言ってますが、裕也様への失礼な言葉使いや態度は許しませんよ。ちなみに裕也様の研究テーマはまだ決まっていません』
ハムリン君は大層驚いた様子だ。
『え? なにそれ? なにしにここへ来たの?』
『日本の高等教育を受けに来ました』
ハムリン君は固まっている。
『日本の? ハイスクールの?』
『ハイ、その通りです』
ミコトさんが涼しい顔でそうハムリン君に告げるとハムリン君は怒り出した。
『ふざけんな! ここは子供の遊び場じゃないんだぞ! 普通の奴は普通の学校に行けよ!』
確かに! オレもそう思うよ!
などとハムリン君が喚いていると。
ゴッ!!!
ミコトさんが草薙剣をハムリン君に振り下ろした。
またも固まるハムリン君、頭にはみるみるタンコブが出来上がる。
『うぇっ……なにするの? ミコト?』
ミコトさんはニコニコ、プルプル震えながら。
『ハムリン、私は何度も言いましたよね? 裕也様に失礼な態度は許しませんと』
『でっ……でも』
なおも食い下がるハムリン君。
そんなハムリン君にミコトさんは冷徹に言い放つ。
『ハムリン、理事長命令が聞けないようであれば退学してもかまいませんよ?』
こわっ! メッチャ笑ってる!
『うぐっ……ハイ……』
ハムリン君は渋々返事をした。
『それじゃあ、また後で遊んでねミコト』
先程の剣幕はどこえやら、子供らしい仕草でハムリン君は走って行く。
『もう、ハムリンったら校内は走らないとあれ程教えたのに』
ミコトさんは腰に手を当てプンスカ怒っている。
それにしてもミコトさん。
言うこと聞かない子供には鉄剣制裁である。
オレも重々気を付けよう。
『裕也様には大変失礼をいたしました』
『いいえ、あれくらいの子供はあんなもんですよ』
『生徒の自主性を尊重する校風で代々やってきたせいか、規律やマナーに関してはその緩い部分がありまして……お恥ずかしいかぎりです』
『まあいきなり理事長が真剣で生徒をゴンですからね……』
ミコトさんは恥ずかしいのか俯きながら『つっ、次は私の研究室へ案内します』と答えた。
途中いろんな生徒に挨拶されながら、ミコトさんはそのつど相手と軽く研究などの会話をしている、理事長兼生徒会長は大変そうだ。
9階でエレベーターを降り、角を曲がった先にミコトさんの研究室はあった。
『ミコトさんは本当に凄いですね、もしかして全生徒の名前と研究内容を覚えているんですか?』
『これくらいは理事長として当然です』
ハムリン君のときと違っていつものミコトさんらしい感じだ。
『みんな礼儀正しいし、これならオレもやっていけそうですよ』
ミコトさんはそれを聞いてフフッと微笑むと。
『それは安心しました』と言いながら研究室の入口センサーにタッチしてドアを開けた。