朝
スマホのアラームを止めていつもの朝が始まる。
ね……眠い……
それにしてもおかしな夢を見た。
右手が何かに焼かれるような感覚。
試しに右手を確認する。
なんともない……当たり前か。
そんな事を考えながらフラフラと台所へ向かうとオフクロが弁当を作っていた。
いつも通りオヤジはもう出勤したみたいだ。
『おは……』
『おはよう裕也、何か食べる?』
『ん――あんま食欲無いからいいや』
俺は弁当を受け取りカバンに押し込む。
『行って来まーす』
『気をつけてね』
この歳になるとなんだか少し気恥ずかしいやり取りをしながら自転車を漕ぎ出す。
さていつも通りのんべんだらりん行きますか。
途中、交差点で他校の生徒とすれ違う。
小牧北工業高校と小牧南部高校だなありゃ……
中学を卒業すると世間は高校と言う名のランク付けをする。
小牧北工業高校の生徒はほぼ高卒で就職する。
小牧南部高校の生徒はほぼ大学へ進学する。
そして自分の通う小牧中央高校はその中間レベル。
どっち付かずの中途半端な普通の学校だった。
『本当に中央値ってやつだな自分は……』
高校に着き、自転車を止め、下駄箱に靴をダンクし、ガララと教室のドアを開ける。
クラスメイトに適当な朝のあいさつまわりをしながら席に着く。
『おっす、裕也』
『んはよ、佐々木』
『聞いてくれよーー昨日は最悪だったぜ』
『どうした?』
『閉店間際に外人が3人くらい来てよ、ネタがもうねえ! ったらキレやがんの』
佐々木とは同じ回転寿司屋でバイトをしている。
俺が休んだ昨日何かあったらしい。
『店長はビビッて出てこねーし、俺は英語なんか話せないし、結局最後にネタが乗ってない寿司出してやったよ』
それは寿司と呼んでいい物なのか?
シャリ出しただけだろそれ……
『で、結局どうなったんだ?』
『ん? なんかそれ見た途端、悲しそうな顔して帰って行った』
『……………』
そうこうしているうちにキンコンカンと予鈴が鳴った。
佐々木はそそくさと席に戻る。
一現目は世界史だ。
世界史はほとんどカタカナ表記で本当に楽だ、日本史は難しい漢字ばかりで人名とか覚えきれん。
一現目が始まって10分。
そんなことを考えながら窓の外を見る。
学校は好きでも嫌いでもないのだが、この教室の窓から眺める景色は気に入っていた。
春は桜が舞ってよく教室に入ってきたものだ。
今は新緑の季節を映す窓一面が、大きなキャンバスのようにも見える。
ぼんやりと窓の景色を眺める。
ああっ……落ち着くのう……
ん?
キャンバスに何かおかしな物が映っている。
んん? 寝ぼけたかな?
なんなんだ? あれは?
何かの機械か?
よく見れば尻尾のようなものが付いている。
大型のパラボラアンテナみたいだ。
あ――――完全に夢だなこりゃーーーー
夢だと気付いた夢はすぐ覚める、面白そうな夢なんだがなあ、ちょっと残念。
パラボラアンテナはどんどんこちらに近づいてくる。
ヘビみたいに移動してくるなぁ……
そうぼんやり考えているとパラボラアンテナは大きな音を立てて尻尾を振りかぶった。
その音でクラス連中も一斉に気が付いたようだ。
佐々木が何か話し掛けてくる。
そしてパラボラアンテナはそのまま尻尾を校舎に振り降ろした。
おいおい。
そんなことしたら校舎が吹き飛ぶぜ―――――――