学園
転校初日の朝である。
昨日ミコトさんに言われた通り玄関前に向かうと、ミコトさんはすでにオレを待っていた。
いつもの格好に刀袋を持っている。
オレは登校初日ということもあり、筆記用具ぐらいしか荷物は無いのだが、ミコトさんもかなり荷物が少ない。
しかもあの刀袋は草薙剣が入っているだろうし……
学校用の荷物はゼロと言っても過言ではない。
『おはようございます裕也様』
『あっ……おはようございます』
朝の爽やかな空気と穏やかな日差しがミコトさんを一層引き立てている。
『それでは参りましょうか』
『…………』
『裕也様?』
『あっ! はい!』
いいいいいかん! 思わず見惚れて反応速度が鈍ってしまった!
ミコトさんに連れられて学園までの道を歩く。
新緑の季節は健やかな空気で俺たちを包んでくれていた。
横に並んで歩くミコトさんをチラ見して思う。
最高の時空だ!
が!
なんだか緊張して間が持たないので話し掛けてみる。
『ミコトさんも荷物少ないですね』
『はい、資料は研究室に置いてあります』
研究室?
はて? 今からオレは高校に通うはずなんだが……
などと考えていると、やがて木々の間から大きなビルが見えてきた。
前面ガラス張りの造りは巨大企業のオフィスビルにも見える。
『ミコトさん……もしかしてあのビルが飛来学園ですか?』
『本館になります』
ふへーー驚いた。
外見は保険会社が都心の一等地に建てるような高層オフィスビルまんまである。
しかもいま本館とミコトさんは言った、恐らくあのビル以外にも校舎があるのだろう。
そのまま歩いていくとビルの玄関が見えてきた、玄関の造りも普通のオフィスビルと変わらない。
入口にはガードマンが四人程立っている。
『おはようございます』
ミコトさんがそう話しかけるとガードマンが全員ピシリと踵を揃え。
『おはようございます、お嬢様』と挨拶した。
玄関中央には回転扉があり、その回転扉の脇にセンサーのようなものが見えた。
『裕也様、私が先に入りますので続いて同じ動作をして下さい』
ミコトさんがセンサーに右手を近づけると回転扉からカシャリと音がした。
恐らく今の動作で、ミコトさんの本人確認をしてロックを解除したのだろう。
生体認証とかいうやつかな? ミコトさんドアに何もかざしたりはしなかった。
回転扉をくぐりミコトさんは先に入って行く。
再びロックが掛かった回転扉の前でセンサーに手をかざす。
カシャリ!
おお! 開いたよ!
オレの情報が登録されている! いつの間に! てか勝手にオレの生体認証データが登録されているのは何か怖いぞ!
ミコトさんは回転扉の先で待っていた。
『ようこそ飛来学園へ』
ミコトさんはそう言ってニッコリと微笑んだ。