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お風呂その1

挿絵(By みてみん)


 ひっ広いな本当……


 案内された風呂場は脱衣場なども含めて造りはまさに旅館の大浴場そのものだった。

 この屋敷に勤める人は全員使えるらしい、なんでも同じ風呂に入って互いに背中を流し合うことによって絆が深まるとかなんとか……

 脱衣場で服を脱ぎタオル片手に浴場の引き戸を開ける。

 目の前には一面に広がる琵琶湖、そして露天風呂の屋根からは月が姿を覗かせていた。


 なんちゅーー景色じゃーー


 天然温泉とは聞いていたけどまさかここまでとは。

 琵琶湖を伝わる風が心地よい。

 身体を洗い、湯船に浸かる。


『ふぅーーっ』


 思わず声が出てしまう。

 いや、最高なんですけどコレ?

 なんというか、先日、本当に死の淵から生き返ったばかりでいうのもなんだが。


 生き返るなーーほんとう。


 これでミコトさんが背中を流してくれたりしたら最高だな……

 失礼しますなんて言って『我が飛来家では客人を御もてなしするシキタリとして当主が禊のお手伝いをいたします』なんちゃって。

 それなんてエロゲ? 的妄想をしているとガララと入口の引き戸が開いた。


 !?


 別に慌てる必要も無いが、確認するとそこには執事の徳重さんが立っていた。


 そりゃ当主が背中を流すとか無いですよねーー


 うーん……


 一言で表すなら、気まずい、以上!

 正直、何度か会っているし話もしているのだが、それも事務的なやりとりばかりだったので個人的な会話は今まで一度も無い。

 60歳は越えているように見えるが年齢もよく判らない。

 お互い無言で5分ほど経過……

 オレは沈黙がどちらかといえば苦手なので、適当に出身地の話でも聞こうとしたとき徳重さんが口を開いた。


『お嬢様をお助け頂き感謝しております』


 今更な感じもする語り出しだ。


『ああっ……ええと……別にあたりまえのことをしただけです』


 なんてあまり冴えない返答をする。


『おっ……お嬢様はどうでしょうか?』

『はあ?』


 どうでしょうかと言われても、なんか変な質問だな。


『まだ知り合って間もないけど、ミコトさんは凄い美人で性格も真っ直ぐだから正直惚れ惚れしますよ』


 ありのままの感想を言ってみた。


『そうですか……』


 そう呟くと徳重さんは急に顔を湯船に半分だけ浸けて、口から息を噴出しブクブクやりはじめた。


 ブクブクブクブク。。。。。


 オレは湯船に徳重さんが顔を浸ける直前、一瞬口元がニヤリとしていたのを見逃さなかった、どうやらこのブクブクは照れ隠しらしい。

 ミコトさんが褒められて嬉しいんだなこのじーさん。

 しばらくして、ガバーーっと顔を湯船から上げて元の表情に戻る。

 少し面倒臭いぞこの人。

 そして湯船に映った月を見つめながら徳重さんはまた語り出した。


『お嬢様は早くに先代である御両親を亡くされ、弱冠15歳で飛来家の家督を継がれました』


 御屋敷に来たときからミコトさんの両親について、まったく話が無かったので薄々感づいていたが両親共亡くなっていたとは……


『他に御兄弟も無く、たった一人で末端まで含めれば10万人ものグループを束ねる当主になられたのです』

『じゅ! 10万人!?』


 そんなに凄い一族だったのか。


『オロチとの戦いにも備え、一族の舵取りをし、寄るべく相手もおらず、さぞや心細かったことでしょう』


 徳重さんは感極まったのかウルウルと涙ぐんでいる。

 本当にこの人はミコトさんが大事なんだな……


『しかし! 今ここに! 最高の伴侶を得たのです!』


 がししぃぃぃ!!!

 なんて音を立てながら両手を握られる。


『なにとぞ! なにとぞ! お嬢様をよろしく御願いいたします!!!』

『はあ……』


 徳重さん今、完全に伴侶って言ったよね。


『オレなんかが不釣合いですよ……』

『なにを申される!』


 ズバアアッ! っと徳重さんは声を荒げて立ち上がった。

 うお! 股間が近い! いろんな意味でキツイ!


『お嬢様の窮地に颯爽と現れ、白い柱神を操り灼竜大蛇を切り裂いたその手並!』


 股間が! 近し!


『世界中の如何な富豪や名門の生まれでも、もはやお嬢様の相手として裕也様より相応しい相手はおりません!』

『私は裕也様が現れたときほど神に感謝したことはございません、先代や飛来家先祖代々の英霊たちが裕也様を遣わしてくれたのだと……ウウッ』


 あわわ、また泣き出した。


『裕也様ならばお嬢様を……飛来家の呪いをきっと解き放って頂けると信じております』

『呪い?』


 そうオレが聞くと徳重さんは急に黙り込んだ。


『私としたことが少々熱くなりすぎましたな』


 まったくだ。


『呪いの件についてはお嬢様から直接聞いて頂ければと思っております』

『直接ですか……聞きづらいなあ……』


 ミコトさんにはどんな呪いがかかっているんですか?

 なんて直接聞けるわけねーー


『それならば、お嬢様は毎朝6時に必ず執務室にて会議を行います』

『会議?』

『五皇と呼ばれる古より世界を統べる5つの一族で行われる会議で御座います、そして我が飛来家は五皇の一つに数えられています』

『イニシエってどれくらい古くから……?』

『最古の一族は遥か有史以前に遡るとのことです』


 有史以前って……


『基本的には歴史の表舞台には立たず、なるべく人類史に干渉しないのが五皇の方針です。戦中戦後も日米政府の干渉は一切受けませんでしたし、その代わりこちらもあまり干渉いたしません』


 干渉をしない代わりに干渉されないわけか。


『五皇の会議に出席なされれば呪いの意味も理解出来るかと思います』

『大丈夫ですかね? オレなんかが会議に参加しても』

『大丈夫です、とにかくお嬢様をよろしく御願いいたします』


 そう言うと深々と頭を下げて徳重さんは浴場から出て行った。

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