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父と母

『それではゲストハウスに御案内いたします』


 ミコトさんに屋敷を案内される。

 オレが寝ていた部屋から出るとそこには中庭が広がっていた。

 その中庭自体も小さめのグラウンドくらいはある。

 池には高そうな鯉が泳いでいる。

 それにしても広い、全体像が掴めない。

 そこから長い渡り廊下のようなところを歩いて角を曲がった先にはまた同じような庭が広がっている。


 お外が……

 お屋敷の外が見えません。


 ようやくミコトさんが案内した場所は旅館みたいに広い玄関だった。

 玄関にはオレの靴も。

 一週間前のあの日オレは靴を履き普通に学校に通ったのに。

 たったの一週間でこんなにも変わってしまうなんて……


挿絵(By みてみん)


『車を用意しました』


 見るからに高そうな車が止まっている。

 あんまり車には詳しく無いのだが、黒塗りの車体は後部座席が長めに造られている。

 テレビでハリウッドスターや貴族が乗っているようなやつだ。

 リムジンとかいうやつかな?

 観音開きの扉が開く。

 席は革張りで後部座席はなにかの毛織物で覆われている。

 後部座席のスペースが広く、ミコトさんとアトそして自分の3人が乗っても全然余裕だ。


『オレは車に関して詳しくないんですけど、なんか凄いですねこの車』

『私も車はあまり詳しくないのですが、天然木や御影石を使った国産メーカーの特別仕様車ですわ』


 御影石なんて車に使うものなのか?


 俺たちが乗り込むと車は静かに動き出した。

 アトは黙ったまま座席に座っている。

 なんだかアトが普通に車に乗っているのが奇妙な絵だな。

 そのまま車は坂を下り山の斜面に沿って走る。

 車窓からは美しい琵琶湖のパノラマが続く。

 こんなときになんだが琵琶湖って結構大きいんだな……海じゃんこれ。

 車内は沈黙。

 車は10分くらいは走っただろうか?

 木々の間からホテルらしき建物が見えてきた。


挿絵(By みてみん)


『あれが飛来家のゲストハウスになります』


 30階建て以上はあるビルが見える。

 結構な距離から眺めているんだが建物全体が把握出来ないくらい大きい。


『現在は小牧で被災した方々の一部が滞在中です。被災者としてご両親にも滞在して頂いております』


 被災者がかなりいるって話があったな……


『本来なら本宅にも収容したいところなのですがオロチが復活した今、本宅近辺に大勢の人を集めるのは危険なのでこの距離が限界です』

『危険?』

『飛来家の地下にはスサノオ様の依代となる大国柱が御座います、オロチは復活の度にその大国柱を破壊しようと狙ってくるのです』

『大国柱って家族を支える父親とかに使う言葉の?』

『はい、一般に使われている大黒柱の語源になったと思われます』


 アレ? なんかおかしくないか?

 いつも大黒柱を狙うならなんで急に小牧市に……

 オレが納得いかない表情をしているとそれを察したのかミコトさんが説明を付け足した。


『今回初めてオロチはこの場所以外に現れました』

『初めて?』

『私共も驚いております。なぜ小牧市に現れたのか、毎回必ず大国柱を狙ってきていたのに……』


 なんだろ、なにか理由があるのかもしれない。

 そうこうしていると車はビルの入口に止まった。


『1階のロビーにて先程からお待ちです』


挿絵(By みてみん)


 中に入るとロビースペースが広がっていた、高そうなソファーになんだか座り慣れていない感じでオヤジとオフクロは座っている。

 オレを見つけると二人とも立ち上がった。


『オヤジ……オフクロ……』


 すぐさま駆け寄ってオフクロの手を握った。

 オフクロはボロボロと泣き出した。

 オヤジはすぐ隣で涙を堪えている。

 オフクロが泣いているのを初めて見た気がする。

 オヤジが軽くオレの肩を叩いた。


『心配したぞ………』

『オヤジとオフクロも無事で本当に……』


 オレも涙で顔がベチャベチャになっている。


『感動の対面中申し訳ございません、先日お話した件について確認したいのですが』

『ああっ、そうでしたね失礼しました』

『みなさんこちらへ』


 ミコトさんに促され全員でソファーに腰掛ける。


『さっそく本題に入らせて頂きます。裕也様のご両親には先日お話をさせて頂いた通り、しばらくの間、裕也様を飛来家でお預かりしたいのです』


 はい?

 今、なんと?


 現状確認やらなにやらが必死でこれからどうするかなんて考えてもいなかった。


『……と申しましても裕也様には今、初めてお話したので裕也様自身がどうしても無理だとおっしゃられるならあきらめますが』


 ミコトさんはジッとオレを見つめる。


 アトと約束してしまったし、デシメーターと戦うのならミコトさん達と一緒に行動するしかないか……


『俺はミコトさん達と一緒に行動しても構わないです……』

『母さんは反対だわ』


 !? オフクロが言い放つ。


『せっかく裕也が無事で生きていたのに、先日あなたに説明されたような、訳の分からない危険なことには関わらせたくありません』


 オフクロは半泣きでミコトさんを睨みつけている。

 ミコトさんは顔を曇らせてテーブルを見つめている。

 オヤジはオフクロの横でウンウン頷いている。


 うーーん、困ったな、保護者に反対されると色々厄介なことになるよなあ……ちょっと説得してみるか……


『オヤジもオフクロも落ち着いて聞いてくれ』

『?』

『本当はオレ、あそこで死んでいたんだ』


 二人とも怪訝そうな表情で聞いている。


『こんな話をいきなりしても信じろって言う方が無理なのはわかっている、けど本当のことなんだ』

『裕也……』


 ヤバイな本気でオレが正常か心配している……無理ないよな。

 言ってるオレ自身も自分がまともなのか本当のところ自信が無いが……


『瀕死のオレを助けてくれたのが、隣に座っているこのアトって名前の女の子なんだ』


 アトは軽く頷いた。


『アトは世界中で小牧山に現れたような怪物と戦っていらしい、だからミコトさん達と一緒にあのバケモノと戦って、助けて貰った恩返しをしたいんだ』

『助けるって、この子に救助してもらったのかい?』


 オフクロが聞く、まあ普通はそう考えるわな。


『いや……そうじゃなくてキズを治してもらったっていうか……』

『この方、まだ子供にしか見えないが、まさか医者かなにかなのか?』


 オヤジが聞く、そうじゃなけりゃそう考えるわな。


『いやーーそうじゃなくてホラ! アニメとかに出てくる魔法少女みたいな感じでチチンプイのプイとかテクマクマヤマヤみたいな……』


 オフクロの涙腺が決壊した。


『オトーーサン! ウウウウッ裕也が! 裕也が! マホウショウジョとがーーウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!』


 泣きながらテーブルに突っ伏してる。


『裕也……安心しろ……もう大丈夫だ………大丈夫……』


 オヤジも泣きながら両膝の上で拳を握り締めている。


 無理ないわな。


 息子が真顔で魔法少女がボクの身体を治してくれたよ! だもんな。

 大人の常識はそう簡単には覆らない。

 簡単には騙されないし信じない。


 身体を治して貰った話するんじゃなかった、余計ややこしくなってしまった……


『けどオヤジ達も小牧山のパラボラアンテナみたいなバケモノ見たんだろ? あんなバケモノがこれからも世界中で暴れるらしいんだ、それを放っておく事は出来ないよ』

『確かに父さんもバケモノはこの目で見た、しかし、なんで裕也があのバケモノと戦う必要があるんだ? お礼をするにしても何か他に方法は無いのか?』


 ああ、そうか、オヤジ達は俺がエピゴノス乗ってたこと知らないんだ。


『それは……えーーと……』


 オヤジ達とのやり取りを横で聞いていたアトが大きな溜息を吐く。


『めんどくさいので全員外に出ろ』


 心底ウザそーーに、

 ガラス張りから見える外の駐車場を指差しながらアトはそう言った。

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