スサノオ
部屋に入ってきたのは大男だった。
肌は褐色で髪は銀髪、瞳はブルーという日本語を話す割には日本人離れした風体だ。
上下黒のスーツだがジャケットは袖を通さず上から軽く羽織っている。
目付きに鋭さを持つかなりの美男子だ。
『オロチの覚醒による被害がこの程度で済んでいるのはむしろ僥倖だ、最悪の展開ともなれば日本全土が焦土とかしていたかもしれぬ……ぐっ』
慌ててミコトさんが駆け寄る。
『スサノオ様お体に障ります』
スサノオ様って……あの神様か?
『君、名前は裕也といったか?』
スサノオと呼ばれた男性は握手を求めてきた。
『我が名はスサノオ、神須佐能袁命と申す柱神だ』
『中嶋 裕也っていいます』
『ありがとう、君がいなければオロチに討たれていた』
『そんな、オレは無我夢中でやっただけです』
『ところで君達は一体何者なんだ?』
スサノオさんに言われて考えてしまった。
オレ達って何者なんだ?
アトは一体全体なんなんだ?
『ええと……オレはただの高校生なんですけど……』
アトの方にチラリと目線をやる。
『我が名はアト……まあオマエら柱神と似たような存在だ』
説明になっていないような、ぶっきらぼうな答えだ。
『この地の柱神や添柱にはそのような名前の者はいない、他国の柱神なのか?』
『まあそんなもんだ』
アトは詳しく答える気は無いようだ。
『……….……』
暫くの沈黙。
アトの答えがあまりにいい加減なんでみんな黙ってしまった。
話題を変えるか……
話をぶった切るようでなんだが、オヤジとオフクロのことが心配だ。
『こんなときに申し訳ないんですけど、オレの父親と母親が無事か知りませんか?』
オヤジとオフクロの職場は小牧山から結構近い、あの状況じゃ大怪我しててもおかしくない。
『安心して下さい、お二人とも無事です。近くの施設で保護しております』
マジか! 飛来家凄すぎだろ!
オヤジ……オフクロ……
なんだかまた泣けてきた。
『会いに行ってもかまわないですか?』
『すぐに御用意いたします』
うーーん、色々とオヤジ達に説明するのにアトも一緒にいた方が良いよなあ……
『アト、一緒に来てくれないか?』
アトはジト目でこちらを睨む。
『私はオマエの保護者じゃないぞ? 保護者に会いに行くのに保護者がいるのか?』
なんて嫌味を言った。
『まあ、そう言わないで頼むよアト……どうせオロチが出なければ暇なんだろ?』
『私はこう見えて超多忙だ、今も演算処理中なんだぞ』
などとブツブツ言っているが、『まあしょうがないか』と同伴を了承してくれた。
『アトも一緒で問題ありませんよね?』
『もちろん問題ありません』
ミコトさんはスサノオさんを支えながら答える。
スサノオさん結構キツそうだな……
『アトのチカラでスサノオさんを治せないのか?』
オレの身体をすぐに治せたんだからスサノオさんだって治せるはずだ。
『残念だがそいつは私の管轄外だ』
管轄外ってなんだ?
オレは管轄内なのかよ?
『そうか……残念だ、オロチに備えるためにも万全を期したかったのだが』
スサノオさんはそう言って頭を振る。
『ならばミコト殿、私は少し休ませてもらおう』
スサノオさんはフッとその場から消えた。
マジックみたいにアッという間に消えるのを見て、本当にファンタジーとかオカルト的な存在なんだなと改めて思ってしまった。
『あの……ミコトさん』
『なんでしょうか?』
『オレの制服ってどうなりました?』
『回収してクリーニングしてありますが』
『それ持ってきてもらえます?』
『失礼ですがかなり痛んでいるので代わりを御用意いたしますが……』
『いえ、いいんです』
『?』
『なんだかあの制服じゃないとシックリこないというか……』
『そうでしたか、失礼いたしました』
しばらくして女中のような人がオレの制服を持ってきてくれた、そしてそのまま隣の部屋へと案内される。
渡された制服はボロボロだが確かにオレの……小牧中央高校の制服だった。
昨日までのあたりまえの現実に袖を通し、少し複雑な気持ちになった。