はい、今日この日をもって、この団体を解散して下さい
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小鳥のさえずりとアトの寝息。
初めは慣れかなったもんだが、いざやってみるとまあ一週間程で慣れてしまった。
人間、誰かと横になって寝るなんて、みんないくつぐらいまでやるもんなんだろ?
自分は中学に上がった頃に自室を与えられたので実に3年ぶりくらいに誰かと寝ていることになる。
『うーーむ、また計算がズレた、むにゃ』
アトさん寝言もなんか重い。
なにか考えてるかのような、うなされているような表情だ。
試しにほっぺたプニプニしてみたが起きんな。
ブッフフ、可愛いけど変な顔。
さてと、アトで遊ぶのもなんか悪いしそろそろ起きますか。
Tシャツにパンツ一丁から洗面所に行き身支度を整えて部屋を出る。
昨日は本当に大忙しだった。
あれからペトロさん達反乱組は全て投降。
街や人々はアトさんの力で元通り。
色々ありすぎてマリアとイエス様は寝込むし。
自分とアトはアンダーノアではなく地上のバチカンで一夜を過ごした。
うーーん、とりあえず散歩でも行きますか。
なんて廊下を歩いていると少し離れた所に人だかりが出来ていた。
『主よ朝の支度が出来ております』
『いえ、私の身はもはやパンを必要としませんので……』
『そうでしたか、これは失礼を』
ああ、イエス様だ、なんかバチカンの偉い人達をゾロゾロと連れて歩き回っているようだ。
『ここは何の部屋なのですか?』
『はあ、ここは、その、何と言いますか、用を足す場所でして』
なんか色々と施設のことを聞いているみたい、確かに2000年ぶりの復活らしいから現代のことは何も分からんわな。
しかも聞いたことない言葉を話している。
自分はアトに弄って貰ったおかげで何を話しているか分かるけど、あの周りの人達もあの言葉分かるんだろうか?
『おお!』
イエス様はこちらに気付いたようだ。
『あ、おはようございます』
『昨日の貴方か! ありがとう! 本当に昨日はありがとう!』
『えっ、いや別にいいですよ、そんなにお礼言わなくても……』
『いや、そういう訳には、あっ! 失礼した! 私の名前はヨシュア・ベン・ヨセフと申します、貴方のお名前は?』
『自分の名前はナカジマ ユウヤっていいます』
『ナカジマ ユウヤですか、それでは今後ナカジマ殿とお呼びしてよろしいでしょうか?』
『ハイ、それでお願いします』
『早速なのですがナカジマ殿、一つ分からない事がありまして……』
『はあ……』
『あの、この建物といいますか、この立派な施設は一体全体何の施設なのですか?』
『はあ……』
ヨシュアさんは天井を指差している。
『えーーと、ヨシュアさんの宗教施設ですよ』
『はあ? 私の?』
『はい』
『私の宗教施設?』
『はい』
ヨシュアさんは深く考え込んでいる。
『私のというのは一体……』
『えーーと、ですから、簡単に言うとヨシュアさんが教祖の宗教です』
『私が教祖?』
うーーむ、ヨシュアさんまだ状況が上手く飲み込めてないな……
『私が教祖とか、はははは、そんな馬鹿な、私はだだのラビに過ぎませんよ』
『ヨシュアさん柱神になってしまったから知らないと思いますけど、ヨシュアさんが一度亡くなった後、そのお弟子さん達がヨシュアさんを教祖として宗教を立ち上げたみたいですよ』
俺もそのあたりのくだりはよく知らないので大体の感じを説明する。
『わ、私の宗教だなんて!』
『はい、ちなみに通称キリスト教って言われてます』
『キ! キ! キリスト教!? だ、だ、誰が救世主?』
『貴方が』
『私が!?』
ヨシュアさんは自身を指差しながら固まってしまった。
その後、現状を受け入れられないヨシュアさんを連れて大聖堂を歩く。
地上はローマ一帯に規制が敷かれ、スイス軍とイタリア軍が辺りを警備しているらしい。
大聖堂の広場には人っ子一人居ない。
ヨシュアさん達とバチカンの偉い人達で広場から大聖堂を眺める。
『ささ、これが主人を讃え、世界10億の人々が祈りを捧げる大聖堂になります』
『10億ですか……』
ヨシュアさんはまだ現実を受け入れられないのか、話半分上の空といった感じだ。
『ははは、私が救世主』
ヨシュアさんは大聖堂を暫く眺める。
『さあ、主よ世界に光を! 今こそ我らに道を示したまえ!』
バチカンの偉い人達は、ヨシュアさんを取り囲み皆祈っている。
『皆さん、すみません、私にはキリストなどという大役はとてもこなせるものではありません、確かに私は神に祈りました、世界の人々が互いに隣人を愛し想いやる世界をと……私の祈りに人々が耳を傾けてくれるならば私の身を捧げますと』
ヨシュアさんの瞳に強い光が宿る。
『朝からこの施設を色々と案内して貰いました、ありがとうございます、豪華絢爛、そして技巧を凝らした素晴らしい施設だと思います』
ヨシュアさんはひざまづき祈りを捧げる人々に語る。
『しかし、私には遥か先祖から伝わる言葉があります、人の造りし物に神は宿りません』
ヨシュアさんは高らかに穏やかにさらに語る。
『申し訳ないのですが、この豪華さ、この施設はまさに罪人の住む城です』
バチカンの偉い人達は面を上げ呆然としている。
『そ、それでは、我々は如何すれば……』
『そうですね、こんな城を築いてしまう宗教団体がまともだとは私にはとても思えません』
『それはつまり……』
『はい、今日この日をもって、この団体を解散して下さい』
『はい?』
『解散でお願いします』
バチカンの偉い人達は何人か泡吹いて倒れた。