槍の土台にされた被害者
―――ガクン!!!―――
その瞬間、エピゴノスの6本ある腕の内、下4本の感覚が無くなった。
『今更ながら、今一度オマエに伝えておく』
『ぐぐぐ、なんだよアト! 改まって!』
『このエピゴノス、基本ベースは私だが、力の源はオマエの精神力だ、オマエは勝てば全てを得るが負ければ全て失う』
『し、知ってるよそんなことは! だからなんなんだよ!』
『フッ! だから気合いを入れろ!』
『おうさ!!!』
『『―――ハアーーー!!!!!!!―――』』
俺とアトの叫びが重なる。
槍が少しずつ光を失っていく―――
ヨシ! このまま行けば槍を抑え込める!
『ふむ、そろそろだな』
『アト?』
見ればアトの両腕、いつもの長いアームカバーみたいなものが発光している、エピゴノスの下4本、光る腕と連動しているようだ。
アトはエピゴノスの下4本の腕で弱くなったロンギヌスの槍を包み込む。
『? アト?』
そしてロンギヌスの槍の中に光る腕をズブズブと入れてゆく。
『おい、おいアト、何をやってるんだよ』
『介錯だな』
『介錯?』
訳が分からん。
アトは4本の腕を使い、槍の中から何かを引きずり出した。
『ひ、人の骨か? それ?』
それはどう見ても人型をしていた、俺には透明に透き通った光る骸骨に見えた。
『アト、それは、いやそいつは一体……』
『ああ、こいつは槍の土台にされた被害者だ』
『被害者?』
被害者ってなんなんだ? この槍はキリストの聖なる槍じゃないのか?
槍の中から引きずり出された骸骨をアトは優しく抱きかかえた。
『すまんな、ずいぶんと遅くなった』
そしてアトは、骸骨の首筋辺りをトントンやりながら俺に目配せする。
『え? まさかアトさん、この骸骨の首筋に剣を撃ち込むの?』
『そうだ』
『イヤイヤイヤ、無理だって!』
被害者とか言われとる遺体に剣を振るうのは抵抗あるぞこれ。
『見ての通り、こいつの魂はすでに死んでいるんだ、だからここにあるのは遺骸だけさ』
『いや、それでも……』
『たとえ私が宇宙開闢の何億倍もの力を振るおうとも、これは私では出来ない、今のオマエしか出来ないことなんだ……頼む……』
『アト……』
アトはいつになく悲しみに満ちた瞳をこちらに向ける。
『俺が介錯することでこの人は救われるのか?』
『ああ』
仕方無いか――――――
『なんかすみません、よくわからないけど成仏して下さい』
俺は骸骨の首筋に鉄パイプを撃ち込んだ。
―――ドッ!!!!!!―――
その瞬間ロンギヌスの槍が爆砕する。
―――ドス!!! ドス!!!―――
真っ二つに折れた槍は、クルクルと回りながらサン・ピエトロ大聖堂の両脇に落下して地面に突き刺さる。
モニターには笑顔のイエス様とマリア―――
『ほらな! 何とかなるもんだろ?』
俺の言葉にマリアは少しだけ頷いた。




