キリスト復活
ああ、黄金の羽
黄金の羽が溢れる
暖かい光が渦を巻く
天に金の翼が開く
ああ、これは、これは
巨大な翼はサン・ピエトロ大聖堂を遥かに超えて羽を広げている。
『やあ、久しぶり、いつも君だねマリア、眠りの時も復活の時も、いつも私の瞳に映るのは君だけだマリア』
私の背後から両頬を優しく包むこの暖かさは――――――
『!?』
『?』
『あれ? よく見たら違う、似てるけどマリアじゃない?』
私を優しく包んだ主人は壁の影に隠れた。
『あの、貴方は一体誰なんですか?』
ヨシュア様は壁の影から顔だけ出している。
アラム語を話されている、本物だ。
すかさず私は五皇に伝わる最高礼儀式でひざまずく。
『私はヨシュア様の102代子孫マリアでございます』
ヨシュア様の顔が綻ぶ。
『え? 私の子孫? そうか! だからマリアに似てるんだね! そうか! そうか! 本当に良かった!』
ヨシュア様は私を抱きしめて頬ずりする。
『良かった! 良かった! ただ身重のマリアだけが心配で心残りだったから! そうか、マリアは無事出産したんだね、良かった!!!』
あたたたたた、髭が痛い。
ヨシュア様は伝承通り、肌と髪と髭は黒く典型的なアラブ人といった感じだ、服装はスサノオ様と同じブラックスーツを着ている。
なんなのだろう? 神様の趣味なのかな? ブラックスーツ。
『うん、うん、良かった、けど、さてさて私が復活したということは、デシメーターも復活したということだよね』
ヨシュア様は頬ずりを止めて、天空に浮かぶデシメーターを睨み付けた。
―――キィイイイイイイイイイイ!!!!!!―――
デシメーターが吠える、自らの宿敵の復活を感じたのだろう。
デシメーターは身体中の木々から鱗粉を大量に撒き散らした。
それをサン・ピエトロ大聖堂に向けて渦を巻くように放出する。
しかしその渦は大聖堂を守る黄金の翼によってあっけなく吹き飛ばされた。
―――キィイイイイイイイイイイ!!!!!!―――
『前回は完全に滅ぼすことが出来ませんでしたが、今度こそ二度と復活出来ないように完全消滅させましょう』
ヨシュア様がそう言うと、大聖堂の上空に広がっていた黄金の翼が閉じる、そしてヨシュア様と私は光に包まれた。
激しい光。
収まるとそこは鳥籠のような部屋だった。
ミコトから聞いたスサノオ様の中と同じだ。
モニターにはヨシュア様の柱神が映る。
なんだろう、姿は自由の女神を彷彿とさせる、そして手には赤いバールのような物を持っている。
『さてと、それでは槍を出しますか』
ヨシュア様は左脇に握り拳を当てて唸る。
『くっ、ふむう!』
ヨシュア様の脇からその拳に握られて槍が姿を現わす。
『ヨシュア様! 大丈夫ですか? 苦しそうですが!』
『心配いりません、くうっ!』
槍はみるみるヨシュア様の脇から生えていく。
やがてヨシュア様は一本の槍を手にしていた。
槍は本当に粗末な穂と柄で出来ている、ただの槍だ。
『いやあ、これでブスブス刺されたんですが、あまり刺さりが良くなくて本当に痛かったですね』
ヨシュア様はカラカラ笑っている。
『し、失礼ですが、粗末な槍にしか見えませんが……』
『そうですよね、しかし神が私に与えてくれた武器はこれだけですから』
ヨシュア様は槍をブンブン振り回す、慣れた捌きだ。
『うふふ、昔はよく皆と船から魚を突いたな、さあマリアこちらに』
『はい』
ヨシュア様に促されて槍を掴む。
『使い方分かります? この道具を使うのですけど』
ヨシュア様がそう言うと右手に赤いバールのような物が現れた。
『ア、アトラトル、投擲器ですね』
『ほう、よくご存知で、ならば使い方も?』
『ハイ、アトラトルを使った槍の投擲は訓練いたしました』
代々なぜかアトラトルを使った投擲訓練が受け継がれてきたがこのためだったのか……知らなかった。
『そうですか、この投擲器は少し使い方が特殊なんで、飛ばすのにコツがいるんですよね』
ヨシュア様は槍をアトラトルに引っ掛ける。
モニターに映るヨシュア様の柱神も同じ格好だ。
―――キィイイイイイイイイイイ!!!!!!―――
デシメーターが悲鳴を上げる、見ればデシメーターの高度が上がっている、逃げるつもりか?
『さあマリア、私が手助けします、槍をデシメーターに』
鳥篭のモニターに映るデシメーターへと私は槍の狙いを定める。
『行きますよ!!!』
『ハイ!!!』
『さあ、行け! 私の槍よ! 神の同胞よ!』
ヨシュア様がそう告げる――――――
私は槍を放った。
ゴウッ!!!
轟音を響かせ、槍はまるで巡航ミサイルのように真っ直ぐ飛び、姿勢を制御してデシメーターへと向かって行く。
デシメーターに槍が突き刺さる。
―――キキキキキキキキィィ!!!!!―――
『この地球上で破壊するのは環境にあまりよろしく無いので、地球の外へ出て貰います』
デシメーターに向けてヨシュア様がぐっと腕を上げる。
ヨシュア様の槍に押されてデシメーターが空へと昇ってゆく。
辺りの霧も引き連れてヨシュア様の槍はデシメーターを地球上から追い出した。
暫く光りはデシメーターを連れて輝き続ける。
『もう、このあたりでしょうか』
ヨシュア様が伸ばした腕の先で拳を握ると彼方でデシメーターは爆砕した。