第8話 ふぇー。3
「フライドチキンを揚げる場合は4分ね。揚げる前にはちゃんと電子レンジで40秒チンしてね」
「ふぇー」
「揚げた後は4分ぐらい放置してね」
「ふぇー」
彼女がふぇーって言うことにも結構慣れてきた。慣れというものは恐ろしい。しかし改めて考えてみると、ふぇーって結構便利な言葉なんじゃないかと思う。へーって言う代わりにふぇーって言ったり、はいって言う代わりにふぇーって…………全然便利じゃねえな。
「二人とも楽しそうだなー。いいなぁー」
「黙れ」
さっきまで作業をしていたあかっちが話に乱入してきた。俺と柚子ちゃんが仲良く喋ってるのに、邪魔をするな。お前は黙って前出しするか、床でも舐めとけ。
「俺思うんっすけど、不公平じゃないっすか?」
「何が不公平だっていうんだ」
「店長、教える以外に今日何もしてないじゃないっすか」
「指導する立場にいる人間が指導して何がおかしいっていうんだ」
少しでも長く柚子ちゃんと喋りたいなんて気持ちは一ミリもない。
あー。早く喋りてぇー。
「いいなぁー。俺も喋って時間つぶしてぇー」
「前出しでもしてこい。時給50円下げるぞ」
「……へいへーい」
ふっ。時給を下げるという権力を振りかざした事により、俺が改めて店長だと認識しただろ。どうだ、まいったか。
さて、柚子ちゃんとお喋りの続きをするか……って。時間を見たら17時じゃないか。柚子ちゃんがあがる時間だ。まあ……仕方ない。これからは、やたら俺と被るようにシフト組むか。
「それじゃ今日はお疲れ様。また来週のシフトだけ出して帰ってね」
「……ふぇ……。…………ありがとうございました」
なんだ。俺に対しても、ちゃんと喋ることできるじゃん。
こりゃもう……時給50円アップだな。