第7話 ふぇー。2
「……ありがとうございます。またお越しくださいませ」
「いい感じに接客できてるじゃん。その調子、その調子!」
その後、柚子ちゃんの働きっぷりは大活躍、とまでは言わないが、それなりに頑張ってくれた。最初は不安だったが、全然問題なさそうだ。よかったよかった。
「ふぇー」
一つ気付いたことがある。
この子、俺と会話する時だけ、ふぇーしか言わなくなる。
「店長の顔がきしょエグイからそんな風に怯えちゃうんすよー」
「人の顔に対してきしょエグイなんて言葉使うな」
横からあかっちが俺の悪口を言ってくる。
うちの店では、新人と一緒に働く場合、基本的に3人体制だ。指導していると、いつもよりも仕事が大幅に増えてしまい、時間がかかってしまうからな。
「そういえば柚子ちゃんって高校どこー?」
「……北南高校です」
「マジかよ!俺の母校じゃん!田口先生元気にしてるー?」
「……元気です」
あかっちとは普通に会話してるんだよな。なんで俺にはふぇーしか言ってくれないんだろ。何この嬉しくない特別感。全然求めてないんですけど。
「実は、俺も北南高校出身だったんだぜ?」
話に便乗し、会話に加わる。
「……ふぇー」
「……それがどうしたんすか?」
「お前ら冷たいな」
最近思うのが、店長としての威厳を失いつつある気がする。
前からあったかと言われれば正直それすらも疑問だが、新人の子でさえこの有り様だ。いや、ふぇーって言ってるのが俺を馬鹿にしてるのかどうかは全然わからないんだけれども。
「とにかくだ。指導係はあかっちに任せたほうがよさそうだな」
「ういっすー。じゃあフライヤーの作り方から教えてくねー」
「あの……」
「ん?どしたのー?」
「……店長さんに教えてもらいたいです」
何なんだよこの子。可愛いな、ちくしょう。