第75話 キング。3
「強くなりたいんです……。お願いします……!」
「いやいやいや」
「弟子にしてくださるなら何でもします……!」
「いやいやいや。そういう問題じゃないから」
「少ないですが月10万円ほどお支払いします……!」
「よし!今日からお前は弟子だ!」
断じて金に釣られたわけではない。断じて。しかし前出しを教えるだけで月10万円。副業としては美味すぎる。適当なことを言ってればうまくいくだろ。
「ありがとうございます。師匠と呼ばさせて頂きます。さっそくなのですが質問をしてもよろしいでしょうか?」
「ん?いいぞ」
「消える前出しはどうやったらできますか……?」
「き、消える前出し?」
「全日本前出し大会2次予選でAランクモンスターを倒したあの前出しです」
「んんっ?」
なんか俺の知ってる前出しと違う。
「大会で見たときはぞっとしました……。……こんなの前出しじゃないって」
「……お、おう」
俺もそんなの前出しじゃないと思う。
「どんなトレーニングをすればあんなことができるんですか。教えてください!」
「…………呼吸だ」
「……呼吸……?」
「……お前は呼吸するように前出しができるか?」
「え……いや……できないです」
「……それが俺との違いだ。……できるようになってからまた来い」
「……わかりました、師匠。出直します」
……いや、まあ。俺もできないけどね。