第64話 ななみ。
日曜日。俺は履歴書を頼りに七海ちゃんの家を訪れた。インターホンを押し、しばらく待つ。
なんでこんなに緊張してんだろ……。いつも通りでいいよな。いつも通りで。
しばらくするとドアが開き、七海ちゃんが出てきた。なんかいつもより可愛く見える。水玉のワンピース。頬に薄っすらと付いた桃色のチーク。髪を後ろに結びポニーテールにしている。
「こんにちは」
「よ、よう」
「うち、テレビないんで帰ってもらっていいですか」
「受信料取りに来た訳じゃねえよ!」
「え、ああ。ちょっと待ってください。くんくん……。このアンモニアのような刺激臭は店長さんでしたか」
「匂いで人を判断してんじゃねえよ」
「どうぞ上がってください」
少しおどおどしつつも、七海ちゃんの家に入る。どうやら一人暮らしのようだ。部屋の真ん中にはこたつが置いてあり、ぬくぬくして温かそう。ベッドにはおっきなマンボウのぬいぐるみが置いてあり、あれを抱きながら寝たりすんのかなと妄想をしてしまう。
「何じろじろ人の部屋を見てるんですか」
「い、いや。女の子の部屋入ったことねえから、こんな感じなんだって思ってさ」
「そ、そうですか。店長さんなんて一生出会いなんてないでしょうから、今のうちに目に焼き付けとけばいいと思います」
「うるせえよ」
「あ、そういえば飲み物でも入りますか?」
「お、おう。サンキュー。気が利くな」
「私は女子力高いですからね。お湯でいいですか?」
「なんでお湯なんだよ!せめて冷たい水を出してくれ!」
「お湯に氷を入れろってことですか?」
「バカじゃねえの!」
来る前は緊張したが、喋ってみればいつも通りだ。