第2話 前出し。
「店長って前出し好きっすよね」
「好きでやってんじゃねえよ」
今日のシフトはあかっちと一緒だ。
「いや、でもめっちゃ前出ししてるじゃないっすか」
「商品が奥のほうにあると、お客さんが気付かなくて買わない可能性があるからな」
「前出しが趣味なんすね」
「趣味じゃねえよ。仕事だよ」
あかっちはカラーボールの件以降、俺の事を馬鹿にしてくる。店長だと思っていないと言っても過言ではない。
「でも、前出しってめんどいっすよね。お客さんが商品買ったら、またしなきゃいけないじゃないっすか」
「めんどくても仕事だからやんなきゃダメなんだよ」
「お客さんがやってくれればいいのに」
「客に何期待してんだよ」
まあ、気持ちがわからん訳でもない。前出しを終えた直後は「買うな」って心の中で少しだけ思っちゃうし。
「いっそ、前出しした後は、触んなって注意するのはどうっすか?」
「それは前出しする意味を見失ってるな。買ってもらうために前だしすんのに」
「じゃあ奥出しするのはどうっすか?」
「奥出し?」
コンビニを5年間経営しているが、そんな言葉は初めて聞いた。こいつは俺の知らない用語を平気で言ってくるから怖い。
「え?奥出し知らないんすか?」
「し、知らねえよ。……悪いかよ!!!」
「店長って何にも知らないんすね。俺が今考えた言葉っすよ」
くそ、こいつ馬鹿にしやがって。今度適当な理由つけてクビにしてやる。大人なめんなよ。
「それで奥出しってなんだよ」
「商品をあえてお客さんの見えない奥に移動させるんっすよ」
「ほう。それで?」
「そうすると、どの商品も奥にあって、見えなくなるじゃないっすか」
「たしかにそうだな」
「だからお客さんはこの店には何も売ってないと思って、うちの店に来なくなるんで、商品を一生移動させなくて済むってわけっすよ」
「なるほど…………ねーよ!」