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第216話 ちょこ。

 

 うちのコンビニも毎回変な客ばかりが来るわけではない。


「こんにちは!おじちゃん!」


「雪ちゃん、いらっしゃい。後おじちゃんじゃなくてお兄さんって言おうね」


「うん!わかった!おじちゃん!」


 この子は雪ちゃん。週に一回3時のおやつを買うために100円玉を握りしめてうちの店にやってくる。見た目から想像するに、年齢は5歳ぐらいの子なんだろうけど、精神年齢5歳のあかっちより随分しっかりしている。親の教育のいいのだろう。このお買い物もその教育の一種なのか、うちの店に数ある駄菓子の中から自分の好みのお菓子を買うのがこの子の毎週の楽しみになっているようだ。


「今日は何を買っていくんだい?」


「おじちゃんには内緒!」


「そっかー。内緒かー。でもレジ通す段階でわかっちゃうからなー。後俺はお兄さんだよー」


「わかった!おじちゃん!」


 頑なに俺のことはおじちゃんと呼びたいらしい。毎回この注意言ってるんだけどね。まあ子供って思ってもないことを言う生き物だから。かっこいいお兄さんだなーって思ってても、恥ずかしくきっとおじちゃんって言っちゃうんだろうな。一種のツンデレみたいなもんよ。そう解釈したもん勝ちよ。


 そんなことを考えていると、いつの間にか買う物が決まったようで、雪ちゃんが商品をレジに持ってきた。今回はチョコレートを買うみたいだ。


「お会計が98円ね。レジ袋はいる?」


「い、いらない!」


「じゃあ先に商品のお渡しと100円のお預かりで2円お返しね」


「……い、いらない!」


「え?いらないって……募金するの?」


「きょ、今日バレンタインだから……その……」


 ……!?


 ……俺はなんて察しの悪い大人なのだろうか。小さな子が勇気を振り絞って俺のためにチョコレートをくれたのに、それに気づけないなんて……。ありがとう。ゆきちゃん。


 普段の日常生活では出会えない純粋すぎる優しさに、何故だか目には涙が溜まっていた。


「雪ちゃん……ごめんね……雪ちゃん……」


「え……!おじちゃんなんで泣いてるの!……え……」


「ごめんね……!ありがとう……!」


「え……!おじちゃん!」


「うわ。おっさんが泣いてんすけど。きも」

 

 俺の感動ムードを台無しにするように、バックヤードの整理を終えたあかっちがやってきた。


「お、お前には関係ないだろ!!!」


「あ、雪ちゃん来てたんだ。いらっしゃい」


「あ、お兄ちゃん!こんにちは!あ、あのね……」


 何故だか俺に渡す予定だったはずのチョコレートを手に持つ雪ちゃん。


 …………あれ?


「どうしたの雪ちゃん?」


「あの……えっと……これ……!あげる!」


「おー!チョコくれるんだ。ありがとね。雪ちゃん」


「うん!お兄ちゃん大好き!」


 ……バレンタインデーなんてもう嫌だ。

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