第214話 さかな。
「……あれ?……ないな……前ここにあったはずなのにな……あれ……」
深夜のコンビニは変な客が来やすい。
サングラスをかけた中年男性が、お菓子が陳列している棚を見て、あからさまな独り言を言っている。
……流石に声をかけるしかない。
「…………何かお探しですか?」
「ああ。店員さん丁度いい所に。いやね。前にここに置いてあったんですよ」
「……どんなのですか?」
「美味しそうなシャチ」
「ねーよ」
コンビニに何でもあると思うなよ。シャチなんかお菓子の所に陳列しねえよ。どっかの市場と勘違いしてんじゃねえのかこいつ。……いや、市場でも普通売ってねえよ。
「前見た時はめっちゃピチピチいってたんだけどな……嘘ついてません?」
「そんな訳の分かんない嘘つかないです。うちの店にシャチはないです」
「気のせいだったのかな……」
俺の発言が納得いかないのか腑に落ちない様子で棚を並べている。
ふざけんなよこいつ。店長の俺が言うんだから間違いないだろ。信じろよ。シャチなんかいるわけねえだろ。いたら流石の俺でも記念撮影するわ。ボケ。
「もう帰っていただいてもらっていいですかね?」
「……わかりました」
しぶしぶ中年の男が帰ろうとしたその時――。
ドゴゴと大きな騒音が店内に鳴り響き、途端天井が崩れ落ちて巨大なシャチが降ってきた。
「えぇ……」
「……これだ!これだ!!!」
シャチは大きな唸り声を上げ、ピチピチと飛び跳ねている。
「嘘だろ……」
「これいくらですか??買います!!!」
「いや……ええ……」
「お箸とおしぼりも入れといてください!」
「ええ……それどころの話じゃ……」
「今日は家族みんなでシャチパするぞ!やったー!」
すると、シャチが此方の存在に気づいたのか俺に向かって、大きな口を開けて飲み込んだ。
まじか。俺こんなわけのわかんない現象で店で死ぬのか。
――視界が真っ暗になった。
◇
……目を開けるとシャチと客の姿はおらず、心配そうな表情をしている柚子ちゃんの姿があった。……どうやら俺は事務所で寝てしまっていたみたいだ。
「……店長さん大丈夫ですか?お話してたら急に倒れて……本当に心配しちゃいました」
「……さ、さっきのは夢だったのか……。柚子ちゃん心配かけてごめんね」
「いえ……本当無事でよかった……」
「たぶん連勤続きで寝不足だったのかな……ってあれ?っていうかなんで柚子ちゃん喋れてるの?」
「……あっ。ふぇー!」
「え?さっき喋ってたよね?え??」
「ふぇー!ふぇー!」
「あれ……ええ……」
「ふぇー!」
……どうやら俺はまだ寝ぼけていたみたいだ。




