第205話 ふぇー。
「今から柚子ちゃんに面白いものを見せるね」
「ふぇー!」
今日のシフトは柚子ちゃんと一緒だ。いつもように店の鍵を閉めて誰も侵入してこないようにしている。二人の空間を邪魔する人間は客だろうが絶対に許さない。
「いくよー?どすこーい!」
俺の掛け声と共に新商品を陳列している棚がパッと姿を消した。水川なんちゃらが帰ってから少し練習して「消える前出し」とやらを安定してできるようになってきた。正直俺の才能がありすぎて怖い。特に生かすシーンなんて、今後絶対こないと思うので柚子ちゃんに見せて楽しませようと思う。
「ふぇー……」
「どうどう??こんなの見たことないでしょう???」
「ふ、ふぇー……」
「す、すごいでしょ???ほら?本当に棚消えたんだよ??」
「ふ、ふぇ……」
あれ?「ふぇー!すごーい!かっこいいー!大好き―!」みたいな反応を期待してたのに、柚子ちゃんドン引きしてる気がする。あれれ?
「こ、今後は戻すよ??わっしょーい!」
俺の掛け声と共に棚が再び姿を現した。我ながらサクッとすごいことをしてる気がする。
「どうどう??すごくない???棚が出てきたよ??」
「ふぇえええ……」
「ゆ、柚子ちゃん?」
柚子ちゃんが急に、捨ててあったレシートの裏に何か書き始めて俺に見せてきた。
「「怖いです」」
一生この技は封印しようと思いました。




