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第204話 キング。7

「師匠お久しぶりです!!!」


「……お、おう」


 水川なんちゃらが店にやってきた。久しぶりすぎて水川って苗字よく出てきたなって自分を褒めたくなるレベル。こいつの印象もはや前出しって言葉以外に何も残っていないんだけど。


「ついに消える前出しの第3段階まで到達することができましたよ!!!」


「……は?何それ……?」


「第3段階は棚すら消えるって教えてくれたのは師匠じゃないですか!」


「……お、おう」


 やばい。記憶にない。なんだ第3段階って。そもそも消える前出しって何だよ。俺の別の人格が喋ってた説ありませんかね??恐らく俺が言ったことなのに、会話の置いてけぼり感尋常じゃないんですけど。


「では修行の成果を見せますよー!?」


「お、おう」


 そう言い、何故だかノリノリなテンションで水川なんちゃらが棚に向かって何かパワーを送るように両手をかざしている。……間違いなく前出しをする姿には見えないんですけど。


「はっー!!!!」


 掛け声と共に一瞬、棚がぐにゃりと曲がり、商品諸共パッと消えた。……な、なんですかこれ。どういう仕掛けよ。こいつ触れずに棚消しちゃったんだけど。ちょっとかっこいいんだけど。……でも棚はどこに行ったの???


「……なかなかやるな」


「この試練はかなり苦労しましたが、乗り越えることができました!」


「……と、とりあえず棚を一旦戻してくれないか?」


「……え?」


「え?戻せないの」


「……は、はい」


「お前ふざけんなよ」


 なんでうちの商品消されなきゃいけないんだよ。棚丸ごとってもう被害総額結構でかいんだけど。これ防犯カメラの記録を警察に見せれば逮捕してもらえますよね??


「……師匠!いや、前出しキング!」


「な、なんだよ」


「一つお願いがあります」


「なんだよ」


「キングの蘇る前出しを見せてもらっていいですか?」


「……は?」


「消えた棚を再び元に戻す技です。キングが大会の最中にパフォーマンスで見せたあれですよ!」


「……あ、あれなー」


 一旦話を合わせたがマジで何言ってんだこいつ。俺大会とやらでどんなパフォーマンス見せてんだよ。っつかそもそも大会って何だよ。


 しかし、俺の感情とは裏腹に水川なんちゃらが今か今かと待ち遠しそうに俺を見つめている。……そろそろ嘘をつくのも限界な気がする。適当にやって実は人違いなんですーって言うのが一番かもしれない。こいつに構い続けてたら最終的に店ごと消されるかもしれない。


「ではお願いします!」


「……ど、どすこーい!」


 見様見真似で消えた棚辺りに向かって手をかざす。俺の適当な掛け声と共に突如消えたはずの棚が姿を現した。


 ……マジかよ。


「流石キング!!!こんなに素早く棚を戻すなんて……!!」


「こ、今度はちゃんと戻せるようにしとけよ」


「わかりました!!!」


 ……こんなことが出来ちゃうなんて俺って本当に前出しの才能があるのかもしれない。


 ……いや、だからこれ前出しじゃねえよ。

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