第193話 お弁当。
「あのさ、俺思ったことがあるんだけどさ」
「何なのですか?」
「あざらしって食えるのかな」
今日のシフトはあざらしと一緒だ。
「……命の危機を感じたのですよ」
「いや、お前じゃなくて動物のほうだよ!」
「……まともなツッコミに見えて、結局怖いのですよ……」
「いやさ、うちの店にも他とは一風違った弁当みたいなのが必要だと思うんだよね?」
「……なるほどなのですよ」
このご時世、普通の商品を売って安定した利益を生み出すことは難しい。何か新しいアイデアが必要だ。
「そこで恐らく俺の知る限り一番理解不能なあざらしに新しい弁当を考えてほしいわけよ」
「了解なのですよ」
腕を組み、首を捻らせ目をつぶるあざらし。アニメとかだとそうやって考えるシーン結構みるけど、リアルじゃあんまり見ないよな。
◇
――それから約1時間経過した。
考えてくれって言ったものここまで真剣に考えちゃう?サクサクっと思いついたこと言ってくれればよかったんだけど。
ずっと同じポーズで考えている。
考えてる最中で申し訳ないが、流石にそろそろ話しかけよう。
「……何かいいアイデア思いついたか?」
「…………」
「……なあ……」
「…………」
「……もしかして寝てる?」
「…………」
「おい、起きろ!!!」
「……はっ!頭の中でお弁当を食べてお腹いっぱいになっちゃったから、寝ちゃったのですよ!」
……あざらしにまともな話題を振った俺が馬鹿だった。




