第188話 トマト。6
「俺っすよ。俺。赤坂っすよ!さっき電話したでしょ」
「ああー!あかっちか!!!おばあちゃんじゃないほうかー!」
「なんでおばあちゃんかそれ以外で人を区別してんすか」
とりあえずバカ先輩の言うことに一々構っていても話が進まない。
後ろにいる警官に事情を説明しよう。
「あの……ちょっといいっすか?」
「あ、あの人やっぱりおかしいですよね!?すぐ逮捕したほうがいいですよね!?」
「いや、その判断を俺に委ねられても困るんですけど……」
「き、き、気持ち悪いですよね!?い、生きてる価値とかないし、早く死刑とかなっちゃえばいいですよね!?」
「あの、警官がそういうの言うのは良くないんじゃないっすかね……」
「いやでも、ほんと色々とおかしいし、もう。なんか。えっと」
「あの……頭のおかしい人を見て、頭がおかしくなってる所、申し訳ないんすけど、一旦事情を説明させてもらっていいっすか」
「……な、なんですか?」
今回の件について重要な点だけまとめて警官に事情を説明した。カラーボールを投げた理由に関しても真実をそのまま説明しても到底理解してもらえるとは思えないため、新人のミスというシンプルな一言にまとめた。
「……事情はわかりました。今回に関しては大目に見てあげることにしましょう……。でも今後はそのようなミスがないように気を付けてくださいね?」
「それは良かったです。ほら、あざらしも誤解を生んだ張本人なんだから謝っとけ」
「……でもあざらしは犯罪者だと思ってカラーボールを断腸の思いで投げ――」
「しばくぞ」
「……ご、ご、ご、ごめんなさいなのですよ…………」
あざらしが柄にもなく涙目になっている。
ちゃんと反省してるみたいで何よりだ。
「ごめん!あかっち!確認したいことがあるんだけど、ちょっといい?」
新しいシャツに着替え終えたバカ先輩が後ろから話しかけてきた。
「なんすか?」
「いや、あのさ、着替えたんだけどさ……」
「……ん?何か問題ありました?」
「このシャツ、トマトの味がしないんだよね……。ちょっと舐めてもらっても――」
「先輩。ちょっと本気しばきますね」
――――とりあえず今回の件は全て一見落着。
バカ先輩の記憶が戻ったこととか疑問に思う所はあるけどまあいつかわかるだろう。
今日は真っ直ぐ家に帰って、まったりゲームでもやってよう……。
 




