第183話 ななみ。12
「ご飯美味しかったですね」
「俺もお腹いっぱいだ」
ご飯を食べ終わり店を出た後、特に目的もなく駄弁りながら周辺をぷらぷらする。七海ちゃんの様子を伺う限り行き先はまだ決まっていないようだ。
「どこか行きたい場所はありますか?」
「そうだなぁ……俺が楽しめる場所ならどこでもいいぞ」
「……遠回しにキャバクラか風俗に行きたいっていうのやめてもらっていいですか」
「俺が楽しめる場所を何だと思ってるんだよ!?」
「社会人の男性が楽しめる場所なんて大体そんなものです」
「偏見にもほどがあるわ!」
……しかし、全否定できない自分が少し悔しい。
「というわけで店長さんに聞いてもろくな場所がでてこないので、私が行きたい場所を提案します」
「最初に行きたい場所を聞いてきた意味は何だったんだ」
「べ、別にいいじゃないですか。それでなんですけど…………人通りの少ない所に行きませんか?」
「へ?……なんで?」
「……なんでもです」
「……なんでもってなんだよ」
「……と、とにかく行きましょう」
七海ちゃんの後ろをついていく形で歩く。人通りの少ない場所って……なんでわざわざそんなところに行くんだ???
◇
「……ここなら大丈夫ですかね」
着いた場所は狭い路地だった。たしかにここならしばらく誰も通りかからないとは思う。
「それでここで何すんだ?」
「……内緒です」
「内緒っておい……」
「あの……」
「なんだよ?」
「……目を閉じてもらってもいいですか?」
「え……?」
「……お願いします」
七海ちゃんのいつもとは少し違う真剣な表情に、流石の俺も勘付きゆっくりと目を瞑る。
……七海ちゃんはあえて人通りの狭い場所を選んだ。
……今回『デート』に行こうと誘ってきた。
吐息が当たるほど近い距離に七海ちゃんがいることがわかる。
緊張感が此方にも伝わってくる。
自意識過剰だと思って今までずっと考えないようにしていた。
過去の行動の意味を考えればわかるはずだった。
七海ちゃんは俺のことが――。
◇
一瞬の出来事で何も反応することができなかった。
きっと七海ちゃんの『何か』を待っていた俺は相当アホな顔をして目を瞑っていたに違いない。
目を開けると空のペットボトルを持った七海ちゃんがニヤニヤしていた。
何故か俺の全身はびしょびしょになっていた。
 




