第180話 トマト。
「あざらし。ちょっとレジ見といて」
「了解なのですよ」
レジを離れ事務所の中に入ると、とある人物に電話を掛けた。……恐らくあざらしがカラーボールを投げたのはこの人だろう。
しばらくすると、聞き慣れた声が聞こえて来た。
「もしもし?どなたですか?」
「あ、上神先輩っすか。どうもっす。俺っす」
「……もしかしておばあちゃん?」
……早くも電話を切りたい衝動に駆られたが、何とか抑える。
「赤坂っすよ。バイトの後輩の」
「……ああっ!おじいちゃんか!」
「……いや、俺はジジイでもババアでもないっす」
本当バカ先輩っていつも話を聞かないよな……。
――あれ?余りにも普段通りの会話をしていて気が付かなかったがバカ先輩、前の頭のネジが何百本も外れている状態に戻ってないか?
「……ああっ!その口の悪さはあかっちじゃん!久しぶり!」
「……すげぇ腹立つんすんけど、まあいいです。お久しぶりです。先輩に聞きたいことがあるんすけど」
「ん?どうしたの?」
「今先輩の服に赤い塗料って付いてます?」
「え?塗料?塗料って何?」
「……とりあえず服を見てください。赤色のインクみたいなのが付いてませんか?」
「……あっ!!!ほんとだ!!なんか付いてる!!!」
……やはりあざらしがカラーボールを投げたのはバカ先輩だったか。
「……了解っす。このまま町を歩いていると周りから怪しい目で見られると思うんで今から着替えを持っていきますね」
「え?わざわざいいよ!公園とかで洗ったら済む問題だしさ」
「いや……洗っても絶対取れないと思うんですけど……」
「え?これってたぶんトマトでしょ?洗ったら取れると思うよ!」
「いや……そんないきなりトマト投げつけられることってないと思うんすけど……」
……いや、カラーボールも普通ないか。
「そうかな……?ちょっと舐めて何か確認してみるね。……うん、やっぱりこれトマトだよ」
「…………とりあえず今どこにいるか教えてもらっていいっすか」
別の問題が発生する前に早く先輩の所に行ったほうがよさそうだ。




