第148話 キング。7
「師匠お久しぶりです!」
「……おう」
今日は水川なんちゃらが店にやってきた。突然来やがって……予め課題だの何だの考えておけばよかった……。
「聞いてください!」
「……ど、どうした」
「ついに消える前出しができるようになりました!」
「……う、うそつけ」
出来る訳ないだろ。そもそも消える前出しってなんだよ。俺が考えた言葉だけど意味わかんねえよ。
「では……見ててください……」
「お、おう」
「…………はっ!!!」
水川なんちゃらが掛け声のようなものを言い出すと、突如棚にあった商品が、失敗気味のテーブルクロス引きの如くサッと前に動き出した。
……早すぎてよく見えなかったが高速で前出しをすることによって、手が消えて商品だけが勝手に動いたように見えたんだろう……なにこれ。ちょっとかっこいいんだけど。
「し、師匠!どうですか!!!」
「……ろ、65点ぐらいだな。……その……あれだ。少し粗がある」
純粋に凄いと思ったが、師匠として体裁を保つため、お前はまだまだ未熟だ感を醸し出していく。
「……師匠。どうすれば100点に近づけますか……?」
「……え?…………えっと……その……」
なにこいつ。向上心の塊かよ。点数なんて適当に付けただけだって。どうすれば100点になるかなんて俺も知らねえよ。……こうなったら、また適当な嘘を付くしかない……。
「師匠!勿体ぶらずに教えてください!!」
「……さっきの前出しは、ただ手が消えただけだよな?」
「……はい」
「……つまりお前の消える前出しはまだ第一段階だ!」
「……第一段階!?」
「……そうだ。実は消える前出しは第三段階まである!」
「そうなんですか!?」
「そうだ。第二段階は手が消えるどころか、商品も消える!」
「……す、すごい!!!」
「そして第三段階までいくと、棚すら消える!!!」
「ええええ!?」
「……上には上があるってことだ。……第三段階までたどり着いたら、俺の前に来い」
「……し、師匠!!!わかりました!!!」
今日も無事、水川なんちゃらを追い出すことに成功した。
……あいつに会うたび、自分で自分の首を絞めている気がする。




