第X話 バレンタインデー 番外編。2
「ふぇー!」
「ゆ、柚子ちゃん!!」
まさか俺にチョコをくれるのだろうか。というかシフトじゃないのに、わざわざ来てくれたんだからそうに違いない。
「きょ、今日はどうしたのかなー?」
「ふぇー!」
「んー?なになに?」
「ふぇー!」
「……もしかしてチョコとかくれるのかなぁー?」
「ふぇー!」
「えー!そんなぁー!わざわざありがとー!」
「ふぇー!」
……あれ?もしかして……違う?くそっ。安定してコミュニケーションが取れない。こうなったら通訳のあかっちを使うしかない。
「おい。柚子ちゃんが何言ってるか聞いてくれ」
「……はぁ……いいっすけど……。柚子ちゃん今日はどうしたの?」
「……シフトを確認しにきたんですけど、来週の日曜日って入ってますか?」
「あー。日曜なら俺と同じで夕方の5時からだったよ」
「……そうなんですね!ありがとうございます」
……あっれー。おかしいなぁ……。もしかして……渡すタイミングを見失っているのかなー?これはきっかけを作ってあげないとなぁー。
「おい、あかっち。柚子ちゃんにチョコほしいって言ってくれ」
「……まったく、もう。……柚子ちゃん。店長がチョコほしいって言ってるよ」
「……え?店長さんってチョコが好きなんですか?」
「チョコが好きというか、バレンタインデーだからそんなことを言ってるんだと思うよ」
「……あれ?今日ってバレンタインデーだったんですか……?」
「ん?そうだよ」
「……うう。すっかり忘れてました……」
…………柚子ちゃん……。
「ってことみたいっすよ。店長」
「……そっかぁー……忘れてたなら仕方ないなぁ……はぁ」
「……ら、来年は絶対渡しますね!た、楽しみにしててください!」
柚子ちゃんはあかっちの方向を見ながら喋ってるけど、きっと俺に対して言ってくれたんだろう。
……凄く嬉しいんだけど、かなり気を使わせていることに気付いて心が痛くなった。




