第9話 忘れ物。
「あのーすみません。落し物の中に運転免許書ってありませんか?」
「少々お待ちください……。あ、ありますね。念のためお名前と生年月日だけ確認してもよろしいでしょうか?」
「1965年4月2日生まれで、名前は田代浩です」
「ありがとうございます。……はい、どうぞ」
「ありがとね」
お客さんの忘れ物は、コンビニでは非常に多い。例えば、傘の置き忘れ。店を出た頃に雨が止んでおり、傘を忘れてしまう人が多い。
次にコピー機の中。印刷した後、そのまま置いて帰る人が多い。たぶんさっきの人も免許書をコピーして忘れて帰ったんだろ。
「あの……忘れ物をしたんですけど」
さっきのお客さんが帰った後、40代前半ぐらいの女性が声をかけてきた。立て続けに忘れ物を探しに来るのは珍しい。
「えっと……どのようなものでしょうか?」
「愛を忘れてしまったんです」
「愛……愛を忘れた……?えっとその……どういう意味でしょう?」
この方はコメディアンか何かでしょうか。やばそうなオーラがぷんぷんする。
だがしかし、まずは話を聞いてみなければわからない。
「私には結婚して15年目になる主人がいます。主人は私の事を愛してくれていましたし、私も主人のことを愛していました」
「はあ」
「しかし、ある日を境に、主人が家に帰らない日が続きました……。気になった私は、主人がお風呂に入っている最中に、こっそり携帯を見たんです。そこにはなんと着信履歴に知らない女性の名前があったんです。私は主人に問い詰めました。誰よこの女って。主人は言いました。会社の後輩だよって。続けて主人は、疑ってくるってことはお前も何か隠し事をしてるんじゃないだろうなと言ってきたのです。私は呆れて言葉が出ませんでした……。だから私はこの時考えたんです。本当に主人と」
「オッケーです。もう大丈夫です。お腹いっぱいです。大体事情はわかりました」
「はい……この店にありますかね……?」
「断言します。うちの店にはないです。ホストクラブにでも行ってください」