災悪の夫婦
不意に思いついたはた迷惑な夫婦の話です。
ひとまず、初小説ということでいろいろ読みづらいかと思いますが、
楽しんでもらえるように精進していきたいです。
ある世界・ある国のある城のとある修錬場
「きゃあ~~~~~~シェスタ様~~~~~~~」
普段は落ち着いた様子の侍女や令嬢がこぞって詰めかけ黄色い声を張り上げているのは、一つの修錬場。
そこでは丁度剣技の試合が行われているようだった。
そして、にぎやかなギャラリーの視線の先にいるのが、黒髪の青年だった。
相対する、相手の剣を軽やかに避けながら鋭い剣技を見せるたびに、黄色い歓声がとび、
そのたびに黒髪の青年の相手は苛立ったように、青筋を浮かべていた。
そんな相手の様子に黒髪の青年はくすりと笑うと言った。
「周りの雑音が気になるなんてまだまだだね。グレオン」
「っな!」
「ふふふ、では、決着をつけようか」
まるでおちょくるような声音に相手グレオンはさらに苛立った様子だったが、黒髪の青年シェスタは
かまうことなく鋭い剣技をさらに激しくし、ついには相手ののど元にその剣先を突き付けていた。
その瞬間、ギャラリーが一斉に湧いていた。
キャーともワーとも言い難いような声が響いたが、肝心のシェスタと言えば、にこにこ笑って
手を振るだけでそれ以上に何かをすることもなく、剣をしまっていた。その所作すらため息をつく
様子で、少しだけ苦笑いを洩らしたシェスタだったが、すぐにタオルで汗をぬぐい始めていた。
「いや~それにしても、若い子はすごいね。」
どこかしみじみと言うその言葉に、敗れたグレオンは憮然とした表情のまま言った。
「シェスタ様の応援でしょうに。何をいまさら」
「ふふふ、こうして、騎士団に顔をのぞかせるたびに目を輝かされるのは面白いよね」
「そんなあなたのせいで、俺らはいつも以上にしごかれて本当にしんどいですよ」
「あはは、そんなふうにいうと僕もかなしいじゃないか。だいたい原因はそっちにあるし。本来なら視察なんてミューが行かなくてもいいはずなのに・・・」
「・・・そりゃそうですけど、だからと言ってここでストレスを発散されても困るんですよ」
お互いになんだかむっとした表情になりつつある二人の間に、騎士団の団員らしき一人が飲み物を持ってきながら割ってきた。
「まあまあ、二人とも、そう怖い顔しないでさ、これでも飲んで落ち着いてよ~」
ちゃらい・・・と一言で言い表せてしまいそうな声に、シェスタはヤレヤレと肩をすくめたが、グレオンはイラっとした顔を隠しもせずに口を開いた。
「もとはと言えば、副団長あんたのせいで、オレはここで試合する羽目になったんですよ!本当なら今日は・・・今日は、彼女との初デートになるはずだったのにいいいいいい~~~」
それまでの堅物のような顔を一気に崩したグレオンはそういいながら崩れ落ち、しくしくと涙を流していた。
そして、言われたちゃらい様子の副団長と言えば、笑いながら頷いた。
「うん。知ってる。」
崩れ落ちたグレオンに追い打ちをかけるがごとくの良い笑顔での即答に、シェスタは思わず吹き出しながら崩れ落ちたグレオンの肩を叩いたが、グレオンは、副団長のほうを見ながら、ギリギリと拳をにぎりつつ叫んだ。
「あんたのそういうところが、大っ嫌いなんだよおおおおおお!!!」
「ふふふ、オレはグレオンのそういう反応が大好きさ~~~」
完全に副団長におちょくられているグレオンに周りは不憫に思うか忍び笑うかというところだったが、シェスタはお腹を抱えて笑っていた。
「シェスタ様、あんただって、知ってたはずでしょう!?オレが・・・オレがあの子にどれだけアピールしていたか!」
「まあねえ。知ってたけど、どうするかとかはグレオンとあの子次第だったし、さすがにデートの事までは面倒見切れないよね~。大体僕に頼むこと自体おかしいでしょ。」
「~~あの子はシェスタ様の側近じゃないですか~~~~~~~!!!ちょっとはちょっとは、オレにやさしくしてくれても・・・」
段々と本気で落ち込み始めたグレオンに、シェスタと副団長はお互いににこやかな表情をして言った。
「「ほんと、グレオンは面白いよね」」
「おれはちっともおもしろくありません!!!」
騎士団で散々遊び、ストレスもあらかた発散できたシェスタは、副団長に連れられて食堂へと来ていた。
グレオンは完全に落ち込んで他の団員がのみに連れ出したらしい。
「で?フェルがここに来たってことはミューもそろそろ帰れるの?」
食堂の椅子に座りながらそう尋ねるシェスタに、副団長フェルヴェルトは苦笑を浮かべつつ首を横に振った。
「それが、逆で。視察が長引くかもしれないという見解を団長が。」
さっきまでのちゃらさなどどこかへやった様子のフェルに、シェスタも先ほどまでのにこやかな笑顔もどこへやら、すっかり冷めきった瞳をフェルへと向けていた。
「へえ~・・・。ミューが本来ならばでなくても何とかなる筈だったことを、いつまでも放置をしていたあげく、ミューが行かなければいけないような事態にしておいて、さらに長引く?どういうことなのソレ?」
じわじわと寒気が寄ってくるような言葉に、フェルは冷や汗をかきつつ視線を離せないまま言った。
「どうも、その相手の方が宰相に粉をかけているらしくて・・・・」
「・・・・へえ~・・・。」
「もちろん宰相にはそんな気、微塵も、コンマでさえもないのは明白なんですが、その・・・待たせていたこともあって上手に出づらいと言いますか・・・。」
「出づらいのは使節の人間だけであって、ミューは何かの条件を飲んで押さえてるだけでしょ」
「・・・・・・・はい。まあ・・・・。団長がいうには戻ってから7日ほど休みを取るということで今は抑えてもらっているようです。」
「ふうん・・・。お休みねえ~。ほんとにもらえるのなら別に今のところは我慢してあげるけど・・・ミューに何かさせるようなことがあれば、私、そこ潰すわよ?」
「・・・シェスタ様・・・言葉遣いがすっかり戻られて・・」
「うるさいわよ。ミューも何かあった時には仕方がなって言ってたからいいの。いっそ私がそこに行ってこなかけてる相手の前に出て行けばいいんじゃないの?」
「それだけはやめてください。」
「即答したわね。」
「あたりまえじゃないですか。宰相がシェスタ様を目の前にして、演技なんてするはずないじゃないですか。」
「まあ、そうね。」
かなり冷めた目をしたシェスタは言いながら、自分の周りの空間を撫でるように触りヴェールのようなものを取り外していた。そのことに目の前のフェルヴェルトは焦った様子を見せ顔色を悪くしていた。
「シェスタ様!!それとったら宰相にばれるとおっしゃってませんでしたか・・・!?」
「言ったわね」
「いったわねじゃないですよ!!」
それ・・というのはシェスタの旦那である宰相が心配性の末考えた魔術のヴェールであり、それをつけている間は自分の性別を変えられるというもので、実はかなり機密的なものである。
そして、それをつくった宰相はシェスタに何かがあった時にしかそれをとれないようにして今回の遠征に向かったはずだった。
なので今回それが外されたということは、シェスタに何かが起こったと言っているようなもので、フェルヴェルトは、完全に顔色を悪くして目の前のシェスタに苦情を言うしかなかった。
「でも、だって、私ここで待ってるの飽きちゃったんだもの。」
苦情を言われたシェスタは気にすることもなくあっけらかんとそういうと、左手で魔力を綴りはじめていた。
それをみたフェルヴェルトは目を見開いたあと、あわててシェスタの腕を取ろうと近寄ってきたが、それよりも前にシェスタの身体はふわりと風に浚われるように浮かんでいた。
「シェスタ様!!宰相に戻るまでは待つように言われてたじゃないですか!!」
「ミューも、たぶんイライラしてると思うから、宥めるだけよ~。それに、ミューに粉かけるような相手に会ってみたいじゃない?」
「いや、それどんな修羅場なんですか!相手の子が可哀想すぎます!!」
「ふ~ん?ま、いいわ。じゃあいってくるわね」
「いや、いってくるわじゃないですって!!!シェスタ様!!!」
真っ青になって叫ぶフェルヴェルトを放って、シェスタは空気に溶けるようにその姿を消した。
周りは崩れ落ちたフェルヴェルトに同情の視線を向けながら、あの夫婦の標的になった相手に静かに手を合わせた。
かの夫婦は
最恐・最強・最凶 で有名でその言葉にウソ偽りは全くないのだから・・・。